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千葉地方裁判所 平成5年(ワ)22号 判決

二二号事件及び九〇四号事件原告 国鉄千葉動力車労働組合

右代表者 中野洋

二二号事件原告 布施宇一

二二号事件原告 山口敏雄

二二号事件原告 赤羽根宣男

原告ら訴訟代理人弁護士 鈴木達夫

同 藤田正人

同 葉山岳夫

同 菅野泰

同 内藤隆

同 清井礼司

同 一瀬敬一郎

同 大口昭彦

同 遠藤憲一

二二号事件及び九〇四号事件被告 国

右代表者法務大臣 保岡興治

右指定代理人 田中芳樹

同 円山了

同 上武光夫

同 曳地文夫

二二号事件及び九〇四号事件被告 千葉県

右代表者知事 沼田武

右指定代理人 宮崎理男

同 本間敏也

二二号事件及び九〇四号事件被告 伊達興治

二二号事件及び九〇四号事件被告 羽部秀明

二二号事件被告 牧口一治

九〇四号事件被告 和田春樹

被告千葉県、同伊達興治、同羽部秀明、同牧口一治及び同和田春樹訴訟代理人弁護士 石川泰三

同 岡田暢雄

同 今西一男

同 滝田祐

同 新村淳一

岡田暢男訴訟復代理人弁護士

同 山本正

同 杉山憲広

主文

一  二二号事件及び九〇四号事件被告千葉県は、二二号事件及び九〇四号事件原告国鉄千葉動力車労働組合に対し、金五〇万円及び内金二五万円に対する平成五年一月二五日から、内金二五万円に対する平成五年四月二〇日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  二二号事件及び九〇四号事件被告千葉県は、二二号事件原告布施宇一、同山口敏雄、同赤羽根宣男に対し、各金五万円及びこれに対する平成五年一月二五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  二二号事件及び九〇四号事件原告国鉄千葉動力車労働組合、二二号事件原告布施宇一、同山口敏雄、同赤羽根宣男の二二号事件及び九〇四号事件被告千葉県に対するその余の各請求、二二号事件及び九〇四号事件被告国、同伊達興治、同羽部秀明、二二号事件被告牧口一治、九〇四号事件被告和田春樹に対する各請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、二二号事件及び九〇四号事件原告国鉄千葉動力車労働組合に生じた費用は、その五分の三を同原告の負担とし、その余を二二号事件及び九〇四号事件被告千葉県の負担とし、二二号事件原告布施宇一、同山口敏雄、同赤羽根宣男にそれぞれ生じた費用は、その各四分の三を同各原告の負担とし、その余をいずれも二二号事件及び九〇四号事件被告千葉県の負担とし、同被告に生じた費用は、その五分の二を同被告の負担とし、その余を二二号事件及び九〇四号事件原告国鉄千葉動力車労働組合、二二号事件原告布施宇一、同山口敏雄、同赤羽根宣男の負担とし、二二号事件及び九〇四号事件被告国、同伊達興治、同羽部秀明、二二号事件被告牧口一治、九〇四号事件被告和田春樹にそれぞれ生じた費用は、いずれも二二号事件及び九〇四号事件原告国鉄千葉動力車労働組合、二二号事件原告布施宇一、同山口敏雄、同赤羽根宣男の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  二二号事件

1  二二号事件被告らは、各自、二二号事件原告国鉄千葉動力車労働組合(以下「原告組合」という。)に対し、金四〇万円及びこれに対する平成五年一月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  二二号事件被告らは、各自、二二号事件原告布施宇一(以下「原告布施」という。)、同山口敏雄(以下「原告山口」という。)、同赤羽根宣男(以下「原告赤羽根」という。)に対し、それぞれ金二〇万円及びこれに対する平成五年一月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  九〇四号事件

九〇四号事件被告らは、各自、原告組合に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成五年四月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、いずれも被疑者不詳の爆発物取締罰則違反被疑事件(二二号事件)及び現住建造物等放火被疑事件(九〇四号事件)に関して発付された各捜索差押許可状により、平成四年一〇月二六日(二二号事件)及び平成五年四月二〇日(九〇四号事件)の二回、原告組合がその事務所として使用する動力車会館が捜索差押えを受け、平成四年一〇月二六日には駐車場に駐車中の自動車についても捜索がなされ、同会館に居た各個人原告らが身体捜索や写真撮影をされたことについて、右各捜索差押許可状の発付を請求し、また発付された同許可状を執行した千葉県警察所属の司法警察員ら及びこれを発付した千葉地方裁判所所属の裁判官らに違法な職務執行があったとして、原告組合や各個人原告が被った精神的損害に対する賠償を、国家賠償法に基づいて国及び千葉県に、不法行為に基づいて司法警察員個人にそれぞれ求めた事案である。

二  前提となる事実

1  原告組合は、肩書住所地に主たる事務所を置く労働組合であり(争いがない。)、原告布施、原告山口、原告赤羽根は、いずれもその組合員である(証人田中康宏、原告布施、弁論の全趣旨)。

2  二二号事件及び九〇四事件被告伊達興治(以下「被告伊達」という。)は千葉県警察本部長、同被告羽部秀明(以下「被告羽部」という。)、二二号事件被告牧口一治(以下「被告牧口」という。)、九〇四号事件被告和田春樹(以下「被告和田」という。)は、いずれも千葉県警察本部警備部警備二課に所属していた司法警察員たる警察官であった(以下、被告千葉県と右被告らを合わせて「被告千葉県ら」という。)ものである(争いがない。)。

3  二二号事件における各処分の存在

(一) 被告羽部は、平成四年一〇月二三日、千葉地方裁判所に対し、同年二月一八日に発生した被疑者不詳・爆発物取締罰則違反被疑事件(以下「本件犯行(一)」という。)について、差し押さえるべき物を別紙一記載のとおりとし、捜索の対象を、(1) 千葉市中央区要町二番八号所在動力車会館(以下「動力車会館」という。)及びその付属建物、(2) 右動力車会館に在所する者で差し押さえるべき物を隠匿したと認められる者の身体及び所持品、(3) 右動力車会館敷地内及び駐車場に駐車中の車両とする捜索差押許可状の発付を請求し、同裁判所裁判官訴外馬場純夫(以下「訴外馬場」という。)は、同年一〇月二三日、右(1) ないし(3) を捜索すべき場所及び身体とする各捜索差押許可状三通(以下、右(1) に対する許可状を「本件捜索差押許可状(1) 」などという。)を発付した(争いがない。)。

(二) 被告牧口をはじめとする千葉県警察本部司法警察員ら(以下「警察官ら」もしくは「捜査員ら」という。)は、本件捜索差押許可状(1) ないし(3) に基づき、平成四年一〇月二六日午後二時一五分ころから同六時〇五分ころまでの間、動力車会館において、捜索(以下「本件捜索(一)」という。)を行い、左記物件を押収した(以下「本件差押え(一)」という。)(争いのない事実及び弁論の全趣旨)。

(1)  機関紙(前進) 一九九二年三月二日付 第一五六六号 一部

(2)  機関紙(前進) 一九九二年三月九日付 第一五六七号 一部

(3)  機関紙(武装) 一九九二年六月号 第二〇七号 一冊

(4)  機関紙(週刊三里塚) 一九九二年一〇月一五日付 第三七七号 一部

(三) また、被告牧口をはじめとする警察官らは、本件捜索差押許可状(2) に基づき、右(二)と同時刻ころ、同所において、たまたま居合わせた原告布施、原告山口及び原告赤羽根に対し、それぞれ身体捜索(以下「本件身体捜索(一)」という。)を行い、その際、写真を撮影する等の処分(以下「本件写真撮影」という。)を行った(争いがない。)。

(四) さらに、被告牧口をはじめとする警察官らは、本件捜索差押許可状(3) に基づき、同時刻ころ、同所において、たまたま駐車中の原告布施所有の自動車について捜索を行った(争いのない事実及び弁論の全趣旨)。

(五) 原告組合は、被告伊達に対し、配達証明付きの郵便をもって、本件差押え(一)による押収物の還付を請求し、同時に、一週間以内に連絡がない場合には還付請求を拒否したものとみなすことを申し入れ、右郵便は平成四年一一月四日到達した。しかし還付はなされず、原告組合らの準抗告の申立てに基づく千葉地方裁判所平成四年(む)第一五五七号の還付を命ずる決定により、平成五年一月一三日に原告組合に還付された(争いがない事実及び二二号事件丙四八号証)。

4  九〇四号事件における各処分の存在

(一) 被告羽部は、平成五年四月一九日、千葉地方裁判所に対し、平成四年一〇月三日に発生した被疑者不詳・現住建造物等放火被疑事件(以下「本件犯行(二)」という。)について、差し押さえるべき物を別紙二記載のとおりとし、捜索の対象を動力車会館、同付属建物及び同所に在所する者で差し押さえるべき物を隠匿したと認められる者の身体とする捜索差押許可状の発付を請求し、同裁判所裁判官訴外中川武隆(以下「訴外中川」という。)は、平成五年四月一九日、右を捜索すべき場所及び身体とする捜索差押許可状一通(以下「本件捜索差押許可状(4) 」という。)を発付した(争いがない。)。

(二) 被告和田をはじめとする警察官らは、本件捜索差押許可状(4) に基づき、平成五年四月二〇日午前八時二〇分ころから同一一時二〇分ころまでの間、動力車会館において、捜索を行い(以下「本件捜索(二)」という。)、左記物件を押収した(以下「本件差押え(二)」という。)(争いがない。)。

(1)  機関紙「武装」 一九九三年二月号 第二一四号 一冊

(2)  機関紙「前進」 一九九二年一〇月一九日付 第一五九七号 一部

(3)  機関紙「共産主義者」 一九九三年春季号 第九五号 一冊

三  原告らの主張

1  被告羽部の捜索差押許可状請求、訴外馬場及び訴外中川の捜索差押許可状発付について

(一) 本件捜索差押許可状(1) ないし(4) は、刑事訴訟法二一九条の要件を満たさず、その方式に重大な瑕疵があり、違法無効なものである。

(1)  刑事訴訟法二一九条の趣旨

刑事訴訟法二一九条は、捜索差押許可状の記載要件を規定しているが、これは、憲法三五条一項が捜索・押収に際し「捜索する場所及び押収する物を明示する令状」を要求していることに対応した規定である。憲法は、裁判所の強制権の発動が包括的になされると不当な人権侵害が生じるおそれがあるため、一般令状を厳に禁止しているのである。

それゆえ、捜査機関による権限濫用の防止のためにも、刑事訴訟法二一九条の各要件は、捜索場所及び押収物の同一性を実質的に明らかにできる程度に具体的に記載されなければならない。そして、一部についてでも不特定な記載が存する場合は、右の明示の要件に反することになり、一般令状として違法無効なものである。

(2)  氏名不詳と記載された捜索差押許可状の違法性

刑事訴訟法二一九条一項は、捜索差押許可状には被疑者の氏名を記載することを要求しており、同条二項は、被疑者の氏名が明らかでないときは例外的に人相、体格等被疑者を特定するに足りる事項を記載することで足りる旨規定している(同法六四条二項の準用)。これは、捜索差押許可状においては、法律上被疑事実を記載することが要求されておらず(同法二〇〇条参照)、捜査機関が令状に基づいて捜索差押えを行うに際してその基準となり得るのは罪名及び被疑者の氏名等だけであるところ、被疑者の氏名、人相、体格等の記載を欠く令状にあっては捜査機関による恣意的な権限の行使を抑制することは不可能であるため、被疑者の氏名が不明な場合において被疑者を特定するに足りる必要最小限の事項として被疑者の人相、体格等の記載を要求したものである。

しかるに、本件捜索差押許可状(1) ないし(4) の被疑者欄には、いずれもただ単に「氏名不詳」と記載されたのみで、被疑者の氏名はもちろん、人相、体格等被疑者を特定するに足りる事項は何ら記載されていない。

したがって、本件捜索差押許可状(1) ないし(4) は、同法二一九条に規定された要件を欠き、憲法の規定する令状主義の精神を踏みにじる違憲・違法なものである。

(3)  身体捜索対象者が特定されていない捜索差押許可状の違法性

刑事訴訟法二一九条一項は、捜索差押許可状には捜索すべき身体を記載することを規定している。これは、憲法三五条の一般令状の禁止の趣旨を受け、不特定の身体に対する探索的捜索を禁止するものであり、したがって、捜索の対象となる身体を特定しうる程度の記載がなされていない限り、違法無効となる。

しかるに、捜索すべき身体として、本件捜索差押許可状(2) には「動力車会館に在所する者で差し押さえるべき物を隠匿したと認められる者の身体及び所持品」、同(4) には「動力車会館・同付属建物及び同所に在所する者で差し押さえるべき物を隠匿したと認められる者の身体」という記載があったのみで、それ以上に何らの身体の特定がなされていなかった。右記載中の「差し押さえるべき物を隠匿したと認められる者」という基準は、捜索対象者を特定するに足りる客観的基準たりうるものでないことは明らかである。

したがって、右のような捜索すべき身体の記載は、その場に居合わせた不特定多数人に対する探索的身体捜索を許すものであるから、本件捜索差押許可状(2) 及び(4) は、憲法の規定する令状主義の精神に反し、違憲・違法なものである。

(4)  捜索の対象となる自動車が特定されていない捜索差押許可状の違法性

自動車のような第三者の所有・管理に係る可能性もある可動物件については、令状記載の捜索場所に駐車中であるという事実から直ちに令状記載の捜索場所との同一性が認められるものではなく、それに対する捜索の必要性が生じるものではない。そこで、憲法三五条の一般令状禁止の趣旨を受けて規定された刑事訴訟法二一九条は、自動車等の可動物件を対象とする捜索差押許可状においては、登録番号等によって対象を特定することを要求していると解される。

しかるに、本件捜索差押許可状(3) には、捜索すべき物として、「動力車会館敷地内及び駐車場に駐車中の車両」と記載されたのみで、登録番号等何ら車両を特定するに足る記載がなかった。

したがって、本件捜索差押許可状(3) は、憲法の規定する令状主義の精神に反し、違憲・違法なものである。

(二) 本件捜索差押許可状(1) ないし(4) は、捜索差押えの必要性及び押収物存在の蓋然性が明らかに存在しないにもかかわらず発付されたものであり、憲法三五条一項の「正当な理由」に基づいて発付されたとはいえず、違憲無効なものである。

(1)  憲法三五条一項は、令状は「正当な理由」に基づいて発せられなければならないと規定しているが、第三者に対する捜索差押えの場合は、捜索差押えの必要性のみならず押収物存在の蓋然性がなければ「正当な理由」に基づいて発せられたということはできない。

すなわち、右の憲法の趣旨を受けて刑事訴訟法二一八条一項は、必要性の認められない強制処分を禁止する趣旨から、検察官、検察事務官又は司法警察職員は「犯罪の捜査をするについて必要があるときは」裁判官の発する令状により差押え、捜索等の強制処分をすることができる旨規定しており、また、同法二二二条一項の準用する一〇二条二項は、被疑者の支配管理する場所については目的物が存在する蓋然性が高いと考えられるのに対し、第三者については右のような一般的推定は働かず、第三者に対する強制力は被疑者に対するよりも謙抑的に行使すべきであるとの趣旨から、被疑者以外の者の場所の捜索については、押収すべき物すなわち証拠物等の存在を認めるに足りる状況がなければならないと規定しているのである。

そして、令状請求を受けた裁判官は、右捜索差押えの必要性の有無を判断する実質的権限を有するといえるから、明らかに必要性がないと認められる場合には、令状請求を却下すべきである。また、刑事訴訟規則一五六条三項が同法一〇二条二項を受けて、第三者の身体等について捜索令状を請求するには、差し押さえるべき物の存在を認めるに足りる状況があることを認めるべき資料を提供しなければならないと規定している以上、令状請求を受けた裁判官は証拠物等が存在する蓋然性が認められない場合には、当然に令状請求を却下しなければならない。

(2)  ところで、本件犯行(一)は、本件捜索差押許可状(1) ないし(3) の発付から八か月以上も前である平成四年二月一八日に発生した被疑者不詳の爆発物取締罰則違反事件であり、本件犯行(二)は、本件捜索差押許可状(4) の発付から六か月以上も前である同年一〇月三日に発生した被疑者不詳の現住建造物等放火事件である。他方、原告組合は、登記された労働組合であり、他の個人原告らは、その構成員として原告組合の運動事務に日常的に携わっている者であって、右各犯行事実と何らの関係のないことは明らかであり、本件犯行(一)及び(二)についての証拠物を所持している可能性もない。

また、本件捜索差押許可状(1) ないし(3) の「差し押さえるべき物」の欄には、「(通称…中核派の)成田空港第二期工事阻止闘争についての主義、主張又はそれを支援し、あるいは煽り若しくは犯行を認める機関紙(誌)、ビラ類の文書及びその原稿、原板」との記載が、木件捜索差押許可状(4) の「差し押さえるべき物」の欄には、「(通称…中核派の)新東京国際空港第二期工事阻止闘争…についての主義、主張、方針またはそれを支持しあるいは煽る機関紙(誌)、ビラ類の文書及びその原稿、原板」との記載があるが、これら機関紙等の発行、配付行為は、憲法二一条によって言論の自由、出版の自由及び表現の自由として保障された優越的地位を占める権利の行使である。したがって、右の機関紙等に本件犯行(一)や(二)についての記載が存在したとしても、その発行、配付行為は国家権力によるいかなる規制にも服すべきものではない。けだし、右の機関紙等における本件犯行(一)や(二)についての記載は、各犯行をめぐる意見表明、評論ないし報道として言論に属することは当然だからである。しかも、右機関紙等が書店、大学キャンパス及び駅等において販売されようとしている段階においては何ら証拠価値がないが、ひとたび個人に入手されると証拠物に転化するというのであれば、それは明らかに表現の自由のうちの国民の知る権利(情報受領権)を侵害するとともに、情報提供権を侵害することにもなる。したがって、差押えの必要性の認められない右機関紙等を差押対象物として記載した本件捜索差押許可状(1) ないし(4) は、憲法二一条に違反し無効である。

さらに、本件捜索差押許可状(1) ないし(3) の「差し押さえるべき物」の欄には、「本件犯行に関係あると思料される(一)綱領、規約、議案書、会議議事録、闘争宣言、闘争日誌(記)、(二)ノート、手帳、メモ、領収書、伝票類、連絡文書、報告書、名簿、注文書、納品書…及び文書類、(三)金銭出納簿(帳)…写真、ネガフィルム、カセットテープ、ビデオテープ及びフロッピィディスク、(四)犯行計画、犯行声明、地図、略図等、(五)通信連絡文書、葉書、封書等の郵便物、(六)爆発物を製造するのに必要な…等の部品・工具類並びに設計図、配線図等」という記載が、本件捜索差押許可状(4) の「差し押さえるべき物」の欄には、「本件犯行にかかる(一)規約、綱領、議案書、会議録、闘争宣言、闘争日誌(記)、(二)ノート、手帳、メモ、領収書、伝票類、(三)金銭出納簿(帳)、名簿、…日誌(記)、(四)写真、ネガ、フィルム、カセットテープ、ビデオテープ及びフロッピーディスク、(五)犯行計画、犯行声明、地図、略図等の文書類、(六)通信連絡文書、葉書、封書等の郵便物、(七)時限式発火装置を製造するに必要な…等の部品及び設計図、配線図並びにペンチ、ハンダゴテ、ドライバー等の工具類」という記載がそれぞれなされているが、右対象物のうち、各(一)ないし(三)及び本件捜索差押許可状(1) ないし(3) の(五)、本件捜索差押許可状(4) の(四)、(六)記載の物は、労働組合である原告組合の通常の業務の過程で作成されるものであり、本件各犯行と関係がないことは明らかであり、他方、原告組合の活動にとっては必要不可欠な物であって、押収されたならば組合活動を停止せざるを得なくなるほどの重要な物である。しかも、(一)の綱領・規約という記載に至っては、これらが本件犯行に関係ありうると考えた被告羽部や前記各裁判官の思考過程は一般常識の域をはるかに超えたものであり、社会通念上一見して違憲・違法である。

したがって、本件捜索差押許可状(1) ないし(4) の請求・発付に際しては、証拠物存在の蓋然性もなく、かつ明らかに捜索差押えの必要性がなかった。

(3)  また被告羽部は、本件犯行(二)の事件発生の約三週間後に動力市会館に対する本件捜索(一)を実施しており、その際、本件犯行(二)に係る証拠物が存在しないことを現認しながら、約半年も経過した後に本件捜索差押許可状(4) の請求を行ったのであり、被告羽部が、本件捜索(一)の違法性を巡って原告組合らが同被告らに対し、損害賠償請求訴訟を提起し、第一回口頭弁論がすでに開かれていたことを認識していたことをも考え併せれば、本件捜索差押許可状(4) の請求は、もっぱら憲法で強く保障されている原告組合の組合活動に対する不当な抑圧・介入・干渉を目的とすることが明白である。

(三) 以上から明らかなように、本件捜索差押許可状(1) ないし(4) は、いずれも、その方式において形式上違憲・違法であり、また、捜索の必要性及び押収物存在の蓋然性がなかった点においても違法である。したがって、かかる令状を請求した被告羽部の行為及びかかる令状を発付した前記各裁判官の行為は違法である。

2  被告牧口らによる本件捜索(一)、本件差押え(一)、本件身体捜索(一)及び本件写真撮影、被告和田らによる本件捜索(二)及び身体捜索処分について

(一) 違憲・違法な捜索差押令状に基づく処分は当然に違憲・違法である。

すなわち、捜査機関の捜索差押えの具体的権限は裁判官の発する令状によって初めて付与されるものであるから、裁判官の発付した令状自体が無効なものである以上、その令状によって付与された捜査機関の捜索差押えの権限及びその執行が違憲・違法無効なものとならざるを得ないのは当然である。しかも被処分者にとっては、令状発付の違法がその執行によって現実化するという関係にある。すなわち、発付の段階では未だ被処分者に対して現実的侵害は生じていないが、執行の段階になって侵害が現実化するのである。憲法三一条の下では、適正な手続に基づいた令状の執行に対してのみ受忍の義務を負うのであり、違法な令状による執行は正当化されない。

したがって、被告牧口や被告和田らがなした令状に基づく各処分は違法であるが、本件においてはその各処分自体においても、次に述べるように重大な違法が存する。

(二) 本件捜索(一)及び(二)、本件差押え(一)及び(二)の必要性欠如について

刑事訴訟法二一八条一項は、強制処分実施の時点においても、強制処分の必要性が存在することを要求する。

ところで、原告らが本件犯行(一)及び(二)についての証拠物を所持していることはありえないのであり、しかも、捜索差押対象物として記載されている物のほとんどは到底証拠物たりうる物ではなく、現に被告牧口や被告和田ら捜査員は右対象物を発見したにもかかわらず、これらを差し押さえずに本件の各強制処分を終了したのである。そして、現に押収した物は何ら証拠物たりうる物ではなく、何ら差押えの必要性のないものである。したがって、本件各強制処分は、明らかにその必要性がなかったものであり、憲法三一条、刑事訴訟法二一八条一項に違反する。

(三) 本件捜索(一)及び(二)自体の違法性

(1)  本件捜索(一)は、何らその必要性がなかったにもかかわらず、四七名の私服警察官と約一〇名の制服警察官が大挙して行われた。捜索は、午後二時二〇分ころから午後五時五〇分ころまで、三時間三〇分もの長時間にわたって行われた。特に、動力車会館二階は、原告組合の本部事務室であり、原告組合の業務にとって最も主要な場所であるにもかかわらず、各捜索場所のうち最も長時間の捜索が行われた。また、被告羽部らは、原告組合員が原告組合あてにかかってきた電話に出ることまでも妨害した。さらに、原告布施及び同山口は、東京のJR本社での団体交渉に出席するため、組合団交資料を持参して動力車会館を出ようとしたところ、一階入口で警察官らは、両原告を取り囲んで外出を阻止し、「身体捜索を受けなければ絶対に外に出さない。」と申し向けて団交資料等に対する捜索を強行し、さらに右両原告それぞれの身体の直前にほぼB5版大の透明ビニールケースに入ったカード様の物を差し出し、それを写し込む形で各人の上半身の写真撮影を行った。原告赤羽恨も、原告組合の執行委員として近く開催予定の組合主催の運動会の準備に組合事務所を訪れていて本件捜索(一)に遭遇し、急遽車両の捜索の立会人として同会館前駐車場に赴こうとしたが、同会館入口で警察官らは、「身体捜索を受けなけれは絶対に外に出さない。」と申し向けて同原告に対する捜索を強行し、さらに右同様に同原告の身体の直前にカード様の物を差し出し上半身写真撮影を行ったのである。

原告組合は本件犯行(一)とは無関係であり、本件犯行(一)に係る証拠が原告組合事務所に存在する蓋然性など皆無であるにもかかわらず、かかる捜索によって、原告組合の正当な業務が長時間にわたって妨害された。なお、被告牧口が主だった捜査員に「六時頃までザッとやりましょう。」と小声で耳打ちしていたことからしても、被告羽部らの本件捜索(一)の目的が原告組合の業務妨害にあったことは明らかである。

被告羽部は、本件捜索差押許可状(1) ないし(3) を、原告組合の田中康宏書記長(以下「田中書記長」という。)に提示した際、氏名も名乗らず、警察手帳等の身分を証明するものも提示しなかった。また、田中書記長に対し、右各令状を満足に提示せず、田中書記長がその記載内容を確認し、メモを取ることすら妨害した。

また、本件捜索(二)も、何らその必要性がなかったにもかかわらず、約三〇名の私服警察官と約五名の制服警察官によって、午前八時三〇分ころから午前一一時二〇分ころまで約三時間もの長時間にわたり、内部にいた業務中の組合員を立会人を除いて排除して行われた。その間、原告組合にかかってきた電話への対応を許さず、これを妨害した。

これらによって、原告組合は、憲法二八条により保障された組合活動を長時間にわたり停止させられたのであり、かかる捜索自体憲法二八条に違反する。

(2)  また、本件捜索(一)及び(二)は、有限会社カナメ商事(以下「カナメ商事」という。)の管理する部屋についても行われている。捜索は、場所の管理権に対する侵害であるから管理者が異なれば異なる場所とみなければならず、管理者が異なる場所を捜索するためには別に令状が必要である。そして、カナメ商事は原告組合とは独立の法人格を有する有限会社であり、日動火災海上保険の取扱店であって、営利目的で活動している法人であって、その活動は組合活動ですらない。

よって、カナメ商事の管理する部屋について行われた本件捜索(一)及び(二)は、いずれも無令状捜索として憲法三五条一項及び刑事訴訟法一九七条一項に違反する。

(3)  さらに、本件捜索(一)は、駐車場に駐車中の自動車の内部についても行われている。自動車等可動物件は単に令状記載の捜索場所に駐車中であるという事実をもって、証拠物存在の蓋然性や捜索の必要性が生じるものではない。したがって、単に原告組合の管理する動力車会館の駐車場に駐車していた事実に基づいて、原告組合の所有・管理する物ではない自動車に対して行われた本件自動車捜索は、令状主義の精神を没却するものであり、違憲違法である。

(四) 本件差押え(一)及び(二)の違法性

刑事訴訟法二二二条一項の準用する同法九九条一項は、差押えにつき「証拠物又は没収すべき物と思料するもの」を差し押さえることができる旨を規定する。しかし、本件差押え(一)及び(二)にかかる押収物はいずれもそれぞれの被疑事実と何ら関連性がなく証拠物とは到底いえない。

原告らは、労働組合、その構成員及び同労働組合運動事務に日常的に携わる者らであって、本件犯行(一)や(二)とは何らの関係も有していない。たしかに、本件差押え(一)及び(二)の各押収物は中核派及び全学連の機関紙等である。しかしながら、そもそもこれら機関紙等の発行、配付行為は、憲法二一条により保障された「表現の自由」の行使である。この「表現の自由」は、現代民主主義の維持発展にとり最も枢要にして不可欠ゆえに優越的地位を占める権利であり、またその抑圧がもたらす萎縮効果の深刻さに鑑み、最大の配慮をもって尊重されねばならない権利である。そして、「表現の自由」のうちでも「言論、出版の自由」は、憲法条文に明記されていることに示されるごとく、いわゆる情報を自由に提供する権利として、最も典型的にして中心的権利をなす。したがって、右の各刊行物の発行・配付行為自体は、たとえそれらに本件犯行(一)や(二)に関する記載が存在していたとしても、国家権力によるいかなる規制にも服すべきものではない。けだし、かかる記載は、本件犯行(一)や(二)をめぐる意見表明、評論ないし報道として「言論」に属すること当然であるからである。

ところが、被告牧口や被告和田らは右機関紙等を本件犯行(一)あるいは(二)の証拠物として差し押さえている。しかしながら、右機関紙等は、いずれも「言論・出版の自由」により保障された合法的刊行物である。そして、その機関紙等は多くの場所で常時販売・頒布されており、たとえ被疑事実に関連した記載がそれらになされていようとも、かかる刊行物が押収されているという事実はない。にもかかわらず、それらが、ひとたび個人に入手されると、たちまち証拠物に転化するなどということはありえないのである。かかる不合理がまかりとおれば、それは明らかに「表現の自由」のうちの「国民の知る権利」いわゆる情報受領権の侵害にほかならない。事実、原告組合は、組合運動の一資料として右機関紙等を購入していたのであり、これはまさに「知る権利」=情報受領権の行使であり、それが本件各処分により真っ向から侵害されたのである。

加えて、かかる合法的刊行物がその読者の手元から押収されることは、情報受領権の侵害にもなる。けだし、押収対象者の範囲は当該刊行物の読者すべてに拡大されうることになり、それは情報提供を実質的に無意味化し、もしくは情報提供行為を限りなく萎縮させてしまうからである。

以上のことから、本件差押え(一)及び(二)は、いずれも被疑事実との関連性を欠き、右権利を侵害する違憲・違法なものである。

(五) 身体捜索処分自体の違法性

本件捜索差押許可状(2) 及び(4) は、身体捜索対象者を「差し押さえるべき物を隠匿したと認められる者の身体(及び所持品)」に絞っている。

しかしながら、そもそも右「隠匿した」か否かは客観的に判断し得べきものでもなく、被告牧口は何ら「隠匿した」か否かを判断せず、その場に居合わせた原告布施、原告山口、原告赤羽根らを対象として無差別的に本件身体捜索(一)を行い、また被告和田らも本件捜索(二)の際に同様にその場に居合わせた者を対象に無差別的に身体捜索を行った(以下「本件身体捜索(二)」という。)ものである。現に原告布施、原告山口、原告赤羽根は、原告組合の組合員であって、その日常業務に携わっていた者である。

このような本件犯行(一)あるいは(二)と何ら関係を有しておらず、また何ら差し押さえるべき物を隠匿していない者らに対し、証拠物等存在の蓋然性も認められないにもかかわらず、無差別的にその身体を捜索するのは、何ら必要性のない身体捜索処分であり、憲法三五条一項、刑事訴訟法二一八条一項に違反し、また、原告組合の活動を妨害したものとして憲法二八条に違反し違憲・違法といわざるを得ない。

(六) 本件写真撮影自体の違法性

被告牧口らは、本件身体捜索(一)に際し、原告布施、原告山口、原告赤羽根らの顔写真、上半身写真等を撮影した。右写真撮影は、補助役の警察官が対象者の前にカード様の物を差し出し、これを写し込む形で行われたものと認められる。このような写真撮影は、もはや身体捜索に付随する処分とはいえず、明らかに対象者の肖像権を侵害する独立の強制処分である。他方、これは人の身体の存在、形状、性質、作用を五感の作用により認識するものでもないから、検証ともいいがたく、法に規定のない強制処分である。したがって、本件写真撮影は、無令状で行われた法に規定のない独立の強制処分であると認められる。

そこで、右写真撮影処分が無令状写真撮影に要求される「現に犯罪が行われもしくは行われたのち間がないと認められる場合であって、しかも証拠保全の必要性及び緊急性があり、かつその撮影が一般的に許容される限度を超えない相当な方法をもって行われるとき」(最高裁昭和四〇年(あ)第一一八七号、昭和四四年一二月二四日大法廷判決・刑集二三巻一二号一六二五頁)という要件を充たすか否かを検討すると、まず本件において犯罪行為との接着性は何らなく、したがって証拠保全の必要性、緊急性も何らなく、さらに撮影方法自体も、カード様の物を差し込む形で顔写真、上半身の写真等を撮影したのであるから、もはや一般的に許容される限度をはるかに超えたものである。

よって、原告布施、原告山口、原告赤羽根らに対する本件写真撮影は、憲法三一条、刑事訴訟法一九七条一項に違反し、違憲・違法たるを免れない。

3  本件の各押収継続処分の違法性

(一) 被告伊達は、前述のとおり本件差押え(一)による押収物についての原告組合の還付請求に応じず、また被告千葉県、被告伊達、被告羽部、被告和田らは、本件差押え(二)による押収物をいまだ原告組合に還付せず、押収を継続している。

(二) 刑事訴訟法一二三条の趣旨

押収は、証拠物又は没収すべき物と思料されるものについて必要ある場合になされる強制の処分であり、当該押収物に対する所有者らの私有財産権を制限するものである。それ故、押収を継続するにあたっては、押収物の証拠力の保全や没収対象の確保等本来の押収目的に奉仕するとともに、押収による私人の権利制限が必要最小限度に止められるよう配慮しなければならない。したがって、押収後占有を継続する必要がなくなった物は、即座に被押収者等に返還されなければならない。刑事訴訟法一二三条は、このような趣旨から、押収物で留置の必要がないものは還付しなければならないと定めているのである。

さらに、ここにいう「留置の必要がない」とは、押収物の占有を継続する必要がないということであるが、当然これは押収目的との関係で判断される。押収物が証拠物でないことが判明した場合や、押収物が没収することのできない物又はその必要がない物であることが判明した場合はもとより、証拠としての価値に比して押収の継続によって被押収者の被る不利益が大きい場合等は、留置の必要がないことになる。

そして刑事訴訟法一二三条一項は、同法二二二条一項によって捜査機関の行う押収物の還付にも準用される。したがって、本件において「留置の必要」が存在するか否かは、同法一二三条一項の趣旨に沿って検討されなければならない。

(三) 本件差押え(一)及び(二)に係る押収物は証拠物ではない。

本件差押え(一)及び(二)に係る押収物は「言論・出版の自由」により保障された合法的刊行物である中核派の機関紙であって、本件犯行(一)と何ら関連性がなく、証拠物とは到底いえない。したがって、留置の必要のないことは明らかである。

そして、このような合法的刊行物がその読者の手元から押収され、これに対する還付請求が拒否されることは、明らかに「表現の自由」のうちの「国民の知る権利」いわゆる情報受領権の侵害にほかならない。

また、原告らは、労働組合、その構成員及び同労働運動事務に日常的に携わる者らであって、本件犯行(一)や(二)とは何らの関係も有していないことからも、本件各押収物に留置の必要がないことは明らかである。

よって、被告伊達のなした原告組合からの本件差押え(一)に係る押収物の還付請求の拒否及び被告らが本件差押え(二)に係る押収物を原告組合に還付せず、その押収を継続するのは前記刑事訴訟法の各規定に違反して違法であるのみならず、財産権、表現の自由を侵害する処分として違憲たるを免れない。

なお、千葉地方裁判所は、平成五年一月六日、被告伊達による本件還付請求拒否を取り消すとともに、本件差押え(一)に係る押収物の還付を命じている。

4  被告らの責任

(一)(1)  被告国は、その公権力の行使に当たる公務員である訴外馬場及び訴外中川がその職務を行うについて、故意又は重大な過失により、前記各違法行為に及んだのであるから、国家賠償法一条一項により、原告らに対し、その被った損害を賠償する責任がある。

(2)  上訴制度や裁判官の自由心証主義等があるからといって、誤れる裁判に対する国家賠償法上の違法性が当然に否定されあるいは制限されるものではない。

ア そもそも、上訴制度や再審制度の存在と国家賠償法上の裁判違法の要件とは、まったく関係がない。上訴制度は訴訟上の判断の誤りを是正する制度であり、他方、国家賠償法は公務員の不法行為により生じた損害を過去に遡って経済的に賠償する制度である。

そして、国家賠償法における裁判違法は、上訴制度などとは切り離されて、あくまでも当該裁判官の行為が、裁判官としての行為規範を遵守した権限行使と認められるかどうかという基準で判断される。下級審裁判官の権限行使が違法であるならば、たとえ上級裁判官がその誤りを是正したとしても、右下級審裁判官の違法行為と被害者に生じた損害が存在しなくなるものではないこと当然である。

したがって、上訴制度等と国家賠償法上の裁判官の不法行為責任はその目的及び要件とをまったく異にする制度なのである。

イ また、裁判官の独立の要請や自由心証主義といえども、裁判官の勝手気ままな判断を許すものではないことは、あらためていうまでもない。裁判官の職権行使にあたっては、憲法以下の法令を遵守することはもとより、事実認定においては経験法則、証拠法則及び無罪の推定の鉄則に従うという行為規範が存在する。法定証拠主義に比し、人権保障と実体的真実の発見にとり、より合理的であるという趣旨によって自由心証主義が採用されているのであるから、証拠の評価はあくまでも経験法則や論理法則に従った合理的な判断でなければならないこと、これまた当然である。

さらに、右にいう合理的判断を担保するために、現行刑事訴訟制度は、当事者主義に則って当事者に証拠の証明力を争う機会を与え、有罪判決には犯罪事実を認定した証拠の標目を示すことを求めている。しかるに、本件のごとき裁判官の令状発付にあたっては、その判断の基礎たる資料の証明力を争う機会はなく、その標目すらまったく当事者に明らかにされていないのである。

この意味で、本件において被告国が裁判官の違法行為につき自由心証主義を持ち出すこと自体失当というべきである。

(3)  次に、被告国は「特別の事情」の主張立証責任は原告にあるという。

ア だが、そもそも公権力の行使それ自体が適法として許されているのではない。許されているのは、あくまでも法が定める要件を充足した適法な公権力の行使である。同様に「令状の発付自体は法律の規定に基づく適法行為である。」のではなく、法が定める要件を充足した令状の発付が適法行為とされるに過ぎない。被告国の主張は、行政権の行使は法にのみ基づくという「法の支配」の原理に明らかに反した、現憲法及び国家賠償法によって明確に斥けられた国家無答責主義を前提にした立論である。

したがって、被告国の公権力の行使が法の定める要件を充足していないことを原告が主張した場合、その公権力行使が何らかの事由で適法であることの主張は被告国の抗弁として提出されるべきなのである。

イ 原告らは、本件捜索差押許可状(1) ないし(4) の発付行為につき、それが法に定める要件を充足していないこと、すなわち憲法二一条、三五条、刑事訴訟法一〇二条、二一八条、二一九条及び同規則一五六条に反する違法行為であることをすでに具体的事実の指摘をもって請求原因で説明している。すなわち、本件捜索差押許可状(1) ないし(4) の発付行為の違法性を基礎付ける事実の主張立証責任を果たしているのである。

してみれば、裁判官の側の「特別の事情」は、かかる原告主張に対する抗弁たる位置を占めることはいうまでもなく、被告国においてその具体的事実が主張されなければならない。

(二) 被告千葉県は、その公権力の行使に当たる公務員たる被告羽部、被告牧口、被告和田、被告伊達らがその職務を行うについて、故意又は重大な過失により、前記各違法行為に及んだのであるから、国家賠償法一条一項により、原告らに対し、その被った損害を賠償する責任がある。

(三) 被告羽部、被告牧口、被告和田及び被告伊達は、故意又は重大な過失により、前記各違法行為に及んだのであるから、民法七〇九条に基づき、原告らに対し、その被った後記損害を賠償する責任がある。

5  損害

(一) 原告組合は、本件捜索(一)及び本件差押え(一)によって、知る権利、住居の平穏及びプライバシー権等が侵害されたばかりでなく、組合会議や運動会の準備、JR当局との団体交渉出席が阻害され、また解雇者の生活費や裁判費用のための物資販売運動が損なわれた。その精神的・物質的損害は、金銭に換算して四〇万円を下ることはない。

(二) 原告布施、原告山口、原告赤羽根は、前記身体捜索、写真撮影等によって、身体の自由、肖像権、プライバシー権等が侵害されるとともに、団体交渉出席や右組合運動会準備を担当者として遂行することを妨害された。その精神的・物質的損害は、金銭に換算して各二〇万円を下らない。

(三) また、原告組合は、本件捜索(二)、本件差押え(二)及び押収の継続処分によって、同様に知る権利、住居の平穏及びプライバシー権等が侵害されたばかりでなく、組合員の解雇撤回控訴審裁判闘争への取組みや、組合サークル競技主催のマラソン大会準備等、通常の組合業務の遂行が阻害された。その精神的・物質的損害は一〇〇万円を下らない。

6  結論

(一) 二二号事件

原告組合は、被告国、被告千葉県、被告羽部、被告牧口及び被告伊達に対して四〇万円を、原告布施、原告山口及び原告赤羽根は、被告国、被告千葉県、被告羽部、被告牧口及び被告伊達に対して各二〇万円をそれぞれ請求するとともに、右各金員に対する本件訴状送達の日である平成五年一月二五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二) 九〇四号事件

原告組合は、被告国、被告千葉県、被告羽部、被告和田及び被告伊達各自に対し、金一〇〇万円及びこれに対する違法行為のなされた日である平成五年四月二〇日から支払済みまで前同様年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

四  被告千葉県らの主張

1  本件捜索差押許可状(1) ないし(4) の請求行為の適法性

(一) 本件犯行(一)及び(二)と中核派との関連性

(1)  本件犯行(一)は、革命的共産主義者同盟全国委員会(通称「革共同」といい、以下「中核派」という。)によるものである。

すなわち、中核派革命軍は、都内報道機関に対し、「軍報」を郵送し、そのなかで、本件犯行(一)である平成四年二月一八日の千葉県商工労働部長宅への攻撃を自認している。また、中核派の機関紙「前進」(以下「前進」という。)において、右「軍報」の内容を「軍報速報」として掲載して同様に本件犯行(一)を自認し、「前進」においても同様に本件犯行(一)を誇示する内容を掲載している。さらに、捜索差押え後も、「前進」において同様に本件犯行(一)を誇示している。

(2)  本件犯行(二)も、中核派によるものである。

すなわち、中核派革命軍は「軍報」において、本件犯行(二)である平成四年一〇月三日の日本航空研修センターへの攻撃を自認している。また、「前進」にも右「軍報」の内容を掲載して、同様に本件犯行(二)を自認し、「週刊三里塚」においても同様に本件犯行(二)を誇示する内容を掲載している。さらに、本件捜索(二)の後も、「前進」において同様に本件犯行(二)を誇示している。

(3)  中核派において機関紙は、「党を表現し体現し代表するものであり、党建設の最大のテコである」、「すべての地点で同時に党を代表し、党のための組織者となる」とされ、「積極的に機関紙活動を実現するとき、それは真の力を発揮する」と位置づけられているのであり、「機関紙を中心とした組織活動がカギ」であるとされているのである。そして中核派は、「革命党の機関紙は、正しく、プロレタリアート人民にとって実に重要なことが書いてあり、ぜひとも読んで、理解してもらいたい内容である」として、機関紙の内容の重要性を訴えている。機関紙の中でも特に重要視されているのが、「前進」である。中核派は「前進」について、「日本における唯一の革命的前衛党であるわが革共同の最高の政治水準で出されている、最も革命的な機関紙である」とし、「前進」を「マスターし、全党員が自らの武器とすること、ここにかかっている」と強調する。

このように、「前進」は、中核派にとって極めて重要な役割を持ち、正に中核派の主張を表明する大切な場になっていることが明らかであり、したがって、「前進」等における本件犯行(一)及び(二)の誇示は、その犯行が中核派によるものであることを如実に示しているといえる。

(4)  以上から、本件犯行(一)及び(二)が中核派による組織的犯行であることは明らかである。

(二) 中核派と動力車会館の関連性

(1)  動力車会館の特性

ア 動力車会館は、昭和五四年三月までは、国鉄動力車労働組合(昭和六二年二月二日、組織の再編成により「全日本鉄道労働組合総連合会」と称するようになった。以下「動労」という。)の地方本部の一つである動労千葉地方本部の事務所として使用されていた。

動労は、昭和二六年に結成され、過激派の一つである革命的共産主義者同盟革命的マルクス派(以下「革マル派」という。)の影響を強く受けた労働組合であった。動労と動労千葉地方本部は、昭和五四年三月三〇日、成田闘争に対する路線をめぐって対立し、動労千葉地方本部は動労を脱会し、新たに原告組合を結成して、以後、動力車会館は原告組合の組合事務所として使用されている。

イ 動力車会館には、原告組合の他に全国労働組合交流センター(以下「全国労組交流センター」という。)、千葉労働組合交流センター(以下「千葉労組交流センター」という。)、自衛隊の海外派兵に反対し二度と侵略戦争を許さない共同行動委員会(以下「反戦共同行動委員会」という。)及びカナメ商事が存在している。

(2)  原告組合と中核派の関連性

ア 動労千葉地方本部は、原告組合結成以前から、原告組合内部の一部組合員の影響で上部団体たる動労とは異なり、中核派との関連が強く、そのため革マル派の影響の強い動労本部との間で対立を続けていたのであり、その結果、前記のような昭和五四年三月三〇日の対立、脱会に至ったものである。

イ 原告組合の結成に対し、動労側はこれを認めず、原告組合を切り崩し動労千葉地方本部を再建する方針を決定したが、このような対立の中で、昭和五四年四月一七日には、津田沼電車区で動労組合員と原告組合員との傷害事件、昭和五五年四月一五日には、同電車区で小競り合い、更に、昭和五六年六月二一日には、同車掌区で動労の津田沼支部長以下数名と原告組合員との傷害事件が発生し、昭和五六年の事件では動労側が告訴し、原告組合津田沼支部長以下六名が逮捕された。

この逮捕に対し、中核派は、前記「前進」において、「動労千葉六名逮捕の大弾圧粉砕しカクマルせん滅一掃へ総決起せよ」と題し、「弾圧粉砕・動労千葉防衛、カクマルせん滅一掃に総決起するべきときがきた」「革共同は、これらすべての戦いの最先頭にたち、満身の怒りと、圧倒的な勝利の確信にたって総決起することを宣言するものである」「われわれは動労をそうした反動、反革命ファシストの巣窟にさせるようなことは絶対に許さない」等と原告組合への全面支援体制と革マル派(動労)への対立姿勢を明確にしている。

ウ 原告組合のストライキについて、中核派は、「前進」において、「動労千葉ストへ大支援を」という大見出しで「三里塚二期決戦勝利、国鉄分割・民営化粉砕、動労千葉十一月ストライキの爆発へ大攻勢にうってでよ」「そして動労千葉の英雄的ストライキの支援・防衛、国鉄ゼネストの爆発にむけ総決起せよ」と原告組合への支援を訴えるとともに、昭和六〇年一一月二九日未明、一都二府五県で三三件の通信ケーブル切断事件を敢行し、更に、同日早朝、国鉄浅草橋駅襲撃等のゲリラ事件を引き起こして、首都圏を中心として電車を全面運行不能の状態とした。これらはまさに、原告組合の活動に対し中核派が一体となって支援していることを表すものである。

エ その後も、中核派は、組織をあげて原告組合を死守・防衛することを明確にしており、このことは、中核派と原告組合が密接な関連性を持っている証拠である。具体的には、「今こそわれわれは国鉄労働戦線における動労千葉と動労千葉をはじめとする動労総連合、国労共闘のたたかいを先頭にして、労働者階級の内部におけるたたかいを押し進めていかなければならない」「労働者階級の内部に不抜の党をつくりあげ、その基盤のうえに、戦闘的で柔軟な統一戦線を形成して、動労千葉と動労総連合のたたかいを守り、戦闘的国鉄労働運動の全面的な発展をつくり出すために奮起していかなければならない」「動力千葉先頭に国鉄決戦へ」「ここで、動労千葉のたたかいの位置は決定的に重要である。あらゆる困難と犠牲をはねかえして不屈につらぬかれた動労千葉の階級的決起は」「動労千葉のこのような階級的決起を可能にしたものは、七九年動労からの組織分離独立をはじめ、ファシスト・カクマル松崎との非妥協的内戦的対決を先駆的に貫いてきたことにある」「動労千葉は、日帝の軍大化、ボナパルティズム化との階級攻防の最大の焦点に労働者階級の最先頭で決起し、三里塚闘争の勝利的前進を積極的に担うことによって、職場における当局・資本との階級的力関係をも一労働組合を超える攻勢的で有利な力関係として形成し、階級的団結を強化してきたのである。敵階級に重大な打撃を与え、軍大化、ボナパルティズム化と対決する戦闘的労働運動の突破口を切り開いているのである」「われわれは、この動労千葉を全力で守り、支えぬき、そのたたかいに学びつつ、労働者の本格的な階級的決起をつくりだしていかなければならない」「国鉄戦線におけるたたかいは、動労千葉、動労総連合、国労、国労闘争団を死守・防衛するたたかいを軸にして、決定的に強化されなければならない。とりわけストライキに立ち上がった動労千葉のたたかい、和解路線に突っ走り闘争団を売り渡そうとする一部連合派民同、革同の策動をのりこえ、和解拒否、中労委命令要求、解雇撤回・原職復帰のために熾烈にたたかっている全国の国鉄労働者、闘争団、国労共闘のたたかいを断固防衛し、勝利させるために全党は総決起しなければならない」等においてよく表われているところである。

オ 原告組合の委員長である中野洋(以下「中野委員長」という。)は、昭和四四年当時、反戦共同行動委員会の地下組織である千葉県反戦青年委員会(以下「千葉反戦」という。)の議長であった。

その千葉反戦は、中核派のビラに、千葉県反戦青年委員会名の文章を掲載しているが、その中で千葉反戦の連絡先を「千葉県成田市南三里塚三四三」と記載しているが、右所在地は、中核派の活動拠点であった「三里塚闘争会館」の所在地と同一である。また、中核派は、別のビラにも、千葉県反戦青年委員会名の文章を掲載しているが、その文中において、千葉反戦は、中核派革命軍を「わが中核派革命軍」と称している。

中核派は、「前進」において、「八・三東京革共同集会に三〇〇〇」という見出しの文中で、「革共同中央から北小路敏同志が一時間半に及ぶ基調報告を行い」とし、更に、「基調報告を受けて、これを熱烈に支持する立場から、反戦青年委員会の同志が全力クマル分子せん滅と八〇年三里塚決戦への決意を述べた」と記載し、千葉反戦が「同志」であることを認めている。

これらのことから、中核派と千葉反戦は組織的にも密接な関係を有していることは明白であり、千葉反戦の議長であった中野委員長が中核派と深く係わっていることは明白である。

以上のことから、中核派と原告組合は密接な関連性を有するものである。

(3)  全国労組交流センターと中核派との関連性

ア 昭和六二年ころから、労働界は再編・統一の動きをみせ、連合・全労連・全労協等の大組織が誕生した。そのような動きの中で、中核派は、党の建設・革命の成功は大衆特に労働者の結集力が不可欠と考え、労働界の再編・統一に反対する左翼勢力の取り込みを狙い、「前進」において、「社会党の総転向、日本共産党の裏切り的屈服が進み、ついに新型産業報国会としての全民労連が発足し、さらに総評の解体、全労働戦線の全民労連的統一が強引に押し進められている」「そのために、今こそわれわれは国鉄労働戦線における動労千葉と動労千葉をはじめとする動労総連合、国労共闘のたたかいを先頭にして、労働者階級の内部におけるたたかいを押し進めていかなければならない」と訴え、さらに「労働者階級の内部に不抜の党をつくりあげ、その基盤のうえに、戦闘的で柔軟な統一戦線を形成して、動労千葉と動労総連合のたたかいを守り、戦闘的国鉄労働運動の全面的な発展をつくり出すために奮起していかなければならない」と主張し、労働運動に対する取組みをより一層強め、独自の労働組織を原告組合を中心として結成することを強調した。

イ 昭和六三年一二月一七日、中野委員長と東京地域連帯労組委員長佐藤芳夫とが呼びかけ人となり、「右翼労戦統一に反対する一二・一七労働者集会」を開催し、「全国労働組合・活動家交流センター」を発足させることを明らかにし、平成元年二月二六日に「全国労組交流センター」を正式に結成した。全国労組交流センターについて、中核派は「前進」において「われわれは、労働運動の実践の場におけるすべての成果を集約するものとして、『全国労組交流センター』の大成功をかちとっていかねばならない」とし、更に「前進」においては、「われわれは、この新『連合』の正体を暴露し、労働者大衆の怒りを決定的にたたきつけなければならない。社会党や無党派の組合員にたいする統一戦線のよびかけを積極的に行い、新『連合』への組合の結集にたいして徹底的にたたかわなければならない。と同時に、新『連合』とのたたかいから逃亡する日井系の統一労組懇へのかこいこみによる分裂策動とも徹底してたたかわなければならない。これとあわせて、原則的で堅固な階級性、労働者国際主義をつらぬく本物の労働組合運動をめざす労働者の統一戦線的結集を、全国労組交流センター運動を支援して、つくりだしていくことである。交流センターは、新『連合』の正体をつきだし、絶えず新『連合』内に芽生える反乱の火種に風を送り込むフイゴの役割をなすであろう」と主張し、全国労組交流センターに対する明確な支援を打ち出し、労働界の動きに対し、反発する労働者の取り込み、吸収を図ろうとしている。

ウ また、「前進」においては、中核派の「当面する任務」と題し、「破防法組織適用攻撃を打ち破り、非合法・非公然の職場細胞建設を基礎に、本格的な非合法闘争を推進し革命的ゲリラ戦争を猛爆発させよ。そして、九〇年天皇・三里塚決戦の重要な軸として清算事業団闘争を柱とする国鉄決戦にとりくみ、切り開かれた労働運動の巨大な流動情勢にたいして、労組交流センターの重要な役割を決定的に重視し、この運動を支持し、労組交流センターの運動を圧倒的に強化しよう」等と主張し、非合法闘争と労組交流センターに対する取組みを重要課題として掲げている。

エ 中核派は、「前進」において、「われわれは、具体的には、《六月の挑戦》として打ち出された、自衛隊の海外派兵に反対し、二度と侵略戦争を許さない共同行動委員会(略称、反戦共同行動委員会)のたたかい、そしてその基軸的担い手となる全国労組交流センターを圧倒的に強化するたたかいの先頭に立つことを、党の大方針として確立していったのである」と明言し、全国労組交流センターが中核派の組織の中で既に重要な役割を持って活動していることを明らかにしている。

オ さらに、「前進」において、「第二に、われわれはその党組織を媒介としつつ、労働者階級全体に真向からたたかいを呼びかけ、その先頭に立って前進しなければならない。そしてその点で、今日、決定的なことは労働者階級の反戦闘争、政治闘争への決起を社・共、連合、カクマルの敵対、妨害をはねのけつつ全力をあげて組織化していくことである。…(中略)…今日の政治情勢と労働運動情勢の現実の中で絶対的に必要であり、かつ、組織戦術的にも有効であるものは反戦政治闘争への決起である。具体的には、全国労組交流センターを基軸として進められている反戦共同行動委員会のたたかいに、労組として、サークルとして、諸個人として柔軟な形態で結集していくことがきわめて重要である」として、中核派は全国労組交流センターを中心に各労働者の結集を図り、新たな組織の拡大に利用することを明確にしている。

カ 中核派は、「前進」において、「九〇年、九一年、九二年の飛躍をとおして、われわれは、先制的内戦戦略における(A)(戦闘的大衆運動の戦闘的展開)の戦略的再建に圧倒的に重心を移して、先制的内戦戦略をより本来的形式に本格的に押し上げることを決断した。それは、九一年の「六月の挑戦」として反戦共同行動委員会の出発を生み出し、それが一切の基軸となって戦闘的大衆行動をリードしている。それは全国労組交流センターを中心とした労働者階級のたたかい、全学連の学生の戦闘的たたかい、さらに三里塚闘争を始めとした全人民のたたかいへと相互的に無限の広がりを持ったものへと発展しつつある。われわれは開始された(A)の再建を蜂起戦的に実現していかなければならない」と主張し、先制的内戦戦略の一つである(A)の大衆闘争の戦略的再建について、労組交流センターをはじめ、あらゆる大衆運動組織を活用し、これを強力に押し進めようとしている。ここにおいて、中核派が主張する先制的内戦戦略とは、昭和四七年の「建軍方針」の提起を経て、人民大衆を結集して内乱・内戦蜂起を目指す一方、革命軍を中心とする対革マル・対権力へのテロ、ゲリラによる攻撃的内戦の激化によって革命を引き起こそうとする革命戦略である。中核派は、武装闘争に力を注ぎ、あらゆるテロ、ゲリラを敢行してきたが、革命が成し遂げられるためには、先制的内戦戦略の三つの課題、すなわち、(A)戦闘的大衆運動の戦闘的展開、(B)革命軍の戦闘とその持続的、白熱的展開、(C)労働者階級の中に革命党組織を強力に建設するたたかいが堅く一つのものとしてすべて一体をなしていなければならないとして、党建設には大衆の結集力が不可欠と再認識して、先に示した(A)の再建に力を入れ始めた。全国労組交流センターは、こうした活動の一端を担っており、「前進」などの機関紙等において、活動家に対し、労組交流センターの重要性を繰り返し唱え、組織拡大を指導しているのである。

キ 全国労組交流センターは、本件犯行(一)及び(二)当時、活動方針として、自衛隊のカンボジア派兵阻止、侵略翼賛の連合打倒、反天皇制、破防法反対等を掲げており、これは、中核派の主義主張・闘争方針と同じである。

ク 以上のとおり、全国労組交流センターは、中核派主導のもとに組織化された団体とみることができ、中核派と密接な関連性を有するものである。

(4)  千葉労組交流センターと中核派との関連性

千葉労組交流センターは、平成三年六月一六日、全国労組交流センターの活動方針にのっとり、地方交流センターづくりの一つとして結成され、全国労組交流センターの傘下にある地方交流センターである。全国労組交流センターは中核派主導のもとに組織化された団体とみることができ、中核派と密接な関連性を持っているものであり、千葉労組交流センターはその傘下にある地方組織の一つであることから、千葉労組交流センターも中核派と密接な関連性を有することは疑いのないところである。

(5)  反戦共同行動委員会と中核派との関連性

ア 原告組合の機関紙「日刊動労千葉」には、「五・一九三里塚現地集会」で、中野委員長が特別報告として反戦闘争への結集を呼びかけた様子が掲載されている。それによると、「われわれは、労組交流センターを中心に、『共同行動委員会』を結成し、自衛隊の海外派兵に反対する圧倒的な反戦闘争の高揚を、三里塚闘争と結合して構築するものである。…(中略)…車の両輪として、三里塚の勝利なくして動労千葉の勝利がないことを肝に命じ、連帯の輪を深くしながら進撃したい」と報告している。このことからも、中野委員長及び原告組合自体が三里塚闘争への深い関わりを持ち、中核派の方針に沿った行動を行っているものであり、中核派と原告組合、そして反戦共同行動委員会とが深い関係を有していることがわかる。

イ 中核派は、反戦共同行動委員会について、「前進」において、「われわれは、具体的には《六月の挑戦》として打ち出された、自衛隊の海外派兵に反対し二度と侵略戦争を許さない共同行動委員会(略称、反戦共同行動委員会)のたたかい、そしてその基軸的担い手となる全国労組交流センターを圧倒的に強化するたたかいの先頭に立つことを、党の大方針として確立していったのである。反戦共同行動委員会は、全国労組交流センターの提起のもとで、佐藤芳夫全国労組交流センター代表、中野洋動労千葉委員長、反戦自衛官の小西誠さんの三氏の呼びかけによって創成された」と明言し、動労千葉委員長中野洋自らが中心となって反戦共同行動委員会が結成され、中核派が反戦共同行動委員会と深く関わっていることがわかる。

ウ 更に、中核派は、「前進」において、「今日の政治情勢と労働運動情勢の現実の中で絶対的に必要であり、かつ、組織戦術的にも有効であるものは反戦政治闘争への決起である。具体的には、全国労組交流センターを基軸として進められている反戦共同行動委員会のたたかいに、労組として、サークルとして、諸個人として柔軟な形態で結集していくことがきわめて重要である」として、中核派は全国労組交流センターを軸にして、反戦共同行動委員会の結集を呼びかけているのであり、反戦共同行動委員会が中核派主導の団体であることは明らかである。

エ 同様のことは、中核派が、「前進」において、「当面する任務」として、「革命軍戦略を堅持・発展させつつ、反戦共同行動委運動と労組交流センター運動の発展を目指し、大衆運動の真の戦略的力を回復し、一斉武装蜂起に向けて労働戦線における党建設を切り開いていかなくてはならない」と主張していることにもいえ、反戦共同行動委員会が中核派と密接な団体であることは明らかである。

以上のとおり、反戦共同行動委員会は中核派と密接な関連性を有するものであるといえる。

(6)  カナメ商事と中核派との関連性

原告組合の機関紙「日刊動労千葉」には、「承知のとおり事業部は、カナメ商事、協販部、そして、四月一日以降設立された房総勤労者共同購入会の三部門で構成され」と記載されており、カナメ商事は、有限会社の形態をとってはいるものの原告組合の組織の一部である事業部として位置づけられていることは明らかである。また、カナメ商事の業務内容も、「現在、事業部では、カナメ商事が全支部に自動車保険を中心としてオルグに入っており、着実に加入が拡大されつつあります」と紹介しているとおり、原告組合の資金作りのために、組合員や関係する労働組合などを対象に物品販売運動を行っていることがわかる。加えて、カナメ商事の代表取締役は、原告組合の中野委員長である。

以上のとおり、カナメ商事は、原告組合の一部であり、原告組合と中核派とは密接な関連性を有していることから、カナメ商事も中核派と密接な関連性を有する。

(三) 動力車会館に本件犯行(一)及び(二)に係る押収すべき物が存在する蓋然性

(1)  前記のとおり、本件犯行(一)は、中核派が、同派が掲げた「成田空港問題シンポジウム爆砕」という闘争目的を達成するため、東京、千葉、神奈川及び埼玉の一都三県で同時に敢行した組織的、計画的、悪質な犯行の一つである。

また、本件犯行(二)は、中核派が、同派が掲げた「成田空港反対闘争」「PKO・天皇決戦」という闘争目的を達成するため敢行した組織的、計画的、悪質な犯行の一つである。

(2)  本件犯行(一)及び(二)を敢行したと自認する中核派革命軍は、「前進」に掲載した「革命軍の年頭アピール」において「わが革命軍は、七〇年安保・沖縄決戦の二つの十一月決戦を戦い抜く中から誕生した」とした上で、「八一年秋、われわれは先制的内戦戦略の高次段階への突入を宣言した。大情勢の危機の成熟と日帝のアジア侵略、軍事大国化の攻撃の強化、とりわけ成田空港第二期工事の攻撃の切迫に対して、これと全面的に対決してたたかうという戦略的路線と方針を決断し、日帝・国家権力とのたたかいを『第一の任務』として据えたのである」、「革命のたたかいの勝利と前進の核心には、おびただしい犠牲と苦闘がある。革命軍はそれをのりこえて、七〇年代と八〇年代の日本階級闘争の革命的前進と武装的発展を根底で支えぬいてきたのであった」と説明し、更に、「革命軍の存在は全党、全人民の援助と協力によって支えられている。それによって敵権力の弾圧政治にかちぬける非合法・非公然体制が維持されている」としている。

(3)  また、右「年頭アピール」では、「『革命軍を守り、強化しよう。』これこそ全党、全人民の合言葉とならなければならない。全党の同志と支持者に、革命軍支持活動を圧倒的に前進、発展させること、財政活動を飛躍的に強化することを心から訴える」とし、同志及び支持者に対し革命軍への支援を呼びかけている。

(4)  さらに、中核派政治機関紙「共産主義者」の八五年秋季号では、「われわれはあくまでも非合法・非公然地下軍を基軸に、それを先頭にたたかう。しかし、それでは公然・合法メンバーはゲリラ戦に無縁かというとまったくそうではない。党員や支持者のだれでも、誠実に協力しようとすれば地下軍へのありとあらゆる支援、協力、時によっては直接的協力さえ可能である。それはまた必要である。組織的・財政的支援はもとより、さらには情報の面で、家族対策、敵の弾圧にたいするたたかいの面でありとあらゆる協力、支援ができる。むしろ地下軍はそうした努力なしには一日たりとも存在しえない。だから敵の弾圧は非合法・非公然部門にたいしてだけでなく公然・合法部門へも執拗にむけられる。そして、可能ならばありとあらゆる形式で全戦線でゲリラ戦が組織できるし、その担い手を育てることができる」とし、地下軍(革命軍)には党員や支持者の支援、協力が不可欠であること及び活動の一体性が必要であることを訴えている。

(5)  このようなことから、中核派革命軍のゲリラ戦には、同派に属する活動家のみならず同派と密接な関わりを有する者が様々な形で加担し、また、同派と関わりを有する施設が一般の目に触れない形で利用されているものと認めることができる。このことは、「前進」において「蜂起に勝利する党の本格的な建設へ」との見出しで「非合法・非公然の党・軍の建設はその一切の鍵である。われわれは、すべての人民諸君が革共同・革命軍の非合法・非公然体制を確立し支えるための、ありとあらゆる協力と援助のたたかいに総決起されることを熱烈に訴える。ここに八八~九〇年決戦の成否がかかっているのだ。このたたかいは同時に、党と広範な人民大衆との間に生きた結合をつくり出すためのたたかいである」「また、この非・非党建設の立場から、議会や労働組合をはじめとするすべての合法的陣地をも徹底的に使い切っていくのである」としていることからも明らかである。

(6)  加えて、本件犯行(一)及び(二)の各犯行場所と動力車会館は同一市内であり、かつ距離的にも約三・五キロメートル(本件犯行(一))及び約一七キロメートル(本件犯行(二))といずれも近接した位置関係にある。したがって、これらの事実と右記載の各事項を照らし合わせれば、本件犯行(一)及び(二)に係る押収すべき物が動力車会館に存在する蓋然性が極めて高いと判断したことには合理的な理由がある。

(四) 過去における、動力車会館を対象とした捜索差押えについて

昭和五七、五八、六二年と、本件同様、中核派の犯行と思われる事件について、捜索差押許可状の発付を得て動力車会館に対して捜索差押えを実施している。そのうち一部、差押処分について、原告組合を申立人とする準抗告の申立てがなされたが、申立てはいずれも却下されており、これらのことからみても本件捜索差押えは以前になされたものと同様の事例である。

(五) 一般的に、刑事事件の捜査においては、被疑事件の発生からかなりの年月が経過した後に捜索差押えが行われることがあり、何ら特殊なことではない。

ましてや、本件犯行(一)及び(二)は、それぞれ、中核派構成員及びこれに同調する者により、組織的に、かつ非常に綿密な計画のもとに、何か所にもわたりほぼ同時に敢行された一連のゲリラ事件のうちの一つであり、犯行に携わる人数は極めて多く、多数の指示・連絡文書や計画書等が犯行に際し使用される。従って、このような計画的かつ組織的なゲリラ事件においては、その捜査について多大な時間を要することにならざるをえない。

また、本件のような過激派による組織的犯行に対しては捜査上の特殊性が存する。仮に、捜査機関が関係個所を一か所ずつ順次捜索していたとすれば、捜査情報が過激派組織内で即座に伝達され、極めて巧妙な証拠隠滅がなされてしまう。従って、このような事件の捜索差押えにおいては、捜索差押えの必要な個所を一斉に捜索する必要がある。本件における各捜索に関しても、非常に多くの中核派関連施設を一斉に捜索しているのであって、これら多数の捜索個所について捜索差押許可状を請求し捜索差押えを実施するためには、必然的に相当な準備期間を必要とすることとなるのである。そして、このような捜査を経て初めて証拠物が発見され、事件の解明に結びつくのである。

(六) 結論

以上のとおり、本件捜索差押許可状(1) ないし(4) は、請求段階において、その要件を満たしていたことは明らかである。

2  本件捜索差押許可状(1) ないし(4) の執行行為の適法性

(一) 動力車会館の特異性

(1)  動力車会館は、木造、亜鉛メッキ鋼板葺、二階建の建物で、道路に面した北側に入口がある。この入口のある北側を除く三方はブロック塀で囲まれている。

(2)  入口は、まず道路に面した部分に金属製シャッターが設置され、その奥には鉄製扉が設置され、更にその奥が入口ドアという構造で、二重、三重に遮蔽設備が施されている。また、同会館入口には、監視カメラと照明設備が各二機ずつ設置され、同入口の状況を常時監視できるようになっている。

(3)  動力車会館は、捜索時が平日の午後二時過ぎという時間帯で、しかも建物内に人がいるにもかかわらず、金属製シャッターの奥の鉄製扉は固く閉じられていた。このことからすると、動力車会館は、平素から出入りする者のチェックと侵入防止のための鉄製扉を運用している防衛体制の整った閉鎖性の高い建物であると認められる。

(二) 本件捜索差押許可状(1) ないし(3) の執行について

(1)  執行直前の状況

ア 被告羽部を責任者とする警察官らは、平成四年一〇月二六日午後二時一〇分ころ動力車会館前に到着した。到着時の同会館は、鉄製扉が固く閉じられていた。このため被告羽部は、同会館内にインターホーンを介して捜索に来た旨申し向けたが、同会館内からは何の反応もなかったので同様の申し向けを数回繰り返したところ、ようやく男三名が鉄製扉を開けて現れた。被告羽部は、この者らに自らの身分を明らかにするとともに、令状による捜索差押えに来た旨を告げた。そして同人らに捜索差押えの立会人になることを求めたところ、そのうちの一名がこれを了承したので、同人を総括立会人として、同人に本件捜索差押許可状(1) ないし(3) を呈示した。このころ、同会館内にいた一〇名近くの原告組合の組合員と思われる者らが次々に捜索責任者と対峙するようにして集まり、警察官らに向かって「一人一人の名前を言え。」「警察手帳を見せろ。」などと口々に叫び、同所は右の者らの野次や怒号で騒然となった。

イ 被告羽部は、総括立会人に五ないし六名の立会人を選定するように求めた。これに対し、総括立会人は、立会人の数が少ないとして選定に難色を示したが、被告羽部との話し合いで本件捜索(一)の立会人を選定した。このとき、周辺に集まっていた前記組合員と思われる者らの警察官らに向けた怒号は更に激しくなり、現場は一層混乱の度を増し捜索は開始できなかった。このため、被告羽部は、立会人以外の者は外に出るよう通告して現場の混乱を鎮め、同日午後二時三〇分ころ捜索をようやく開始した。

(2)  捜索差押執行時の状況

ア 本件捜索差押えは、捜索場所を数か所に分け、各捜索場所ごとに立会人を付して実施し、動力車会館一階車庫、同印刷室及び付属建物から中核派機関紙等捜索差押許可状記載の「差し押さえるべき物」四点を差し押さえ、同日午後六時〇五分ころ終了した。被告牧口は総括立会人に押収品目録交付書を交付し、同書を受領した旨の請書へ署名押印を求めたが、同人はこれを拒否した。

イ 捜索差押えに要した時間は、原告組合員と思われる者らの野次や怒号で現場が混乱し、捜索差押えが円滑に執行できなかったという事情があったこともさることながら、捜索場所の規模及び構造からして適正に捜索差押えを行った結果であり、不当に組合活動を妨害したという事実はない。

ウ 本件犯行(一)は、中核派が組織をあげて周到かつ綿密に計画し、一都三県下の七か所において同時に敢行した組織的、計画的、密行的な犯行の一つであること、犯行現場と動力車会館は同一市内にあること、さらに中核派と同会館は密接な関係にあることなどから、同会館には右被疑事件に係る謀議、調査、実行等を証明する証拠等が存在すると認めるに足りる状況が存在した。このため、同会館に対する捜索差押えを行い、右被疑事件に係る証拠物を収集保全する必要があった。現に、本件では、捜索差押許可状に記載された「差し押さえるべき物」として機関紙四点が押収されている。この押収物については、後に原告らの申し立てた本件捜索差押えに係る準抗告の裁判で「現に差し押さえられた各機関紙は、本件被疑事実または背景事実に関する書面である」とされている。

(3)  差し押えるべき物を隠匿したと認められる者の身体に対する捜索

ア 本件捜索(一)において、警察官らは動力車会館に所在していた者で、差押えるべき物を隠匿したと認められる者の身体に対する捜索を行った。

これは、中核派が捜索差押時には組織的対応によって差し押さえるべき物を隠匿し、破棄し、あるいはその時間的余裕がない場合は隠匿又は破棄のための時間稼ぎを常套手段としているところ、動力車会館は出入者を厳しくチェックし、制限している閉鎖性の高い施設であること、また、本件捜索(一)においても警察官が捜索差押えに来た旨を再三にわたり申し向けたにもかかわらず、鉄製扉をすぐには開けず、応対するまでに時間を要したこと、令状呈示後も原告組合の組合員と認められる者らが怒号して現場を混乱に陥れ、速やかな捜索差押えが出来なかったこと等から、警察官らは、この間に同会館内にいた者が、差し押さえるべき物を隠匿した蓋然性が高いと認めたものであり、その認定には合理的理由があった。

イ 右身体の捜索を受けた者の中には、捜索差押え開始直後に動力車会館の奥からいきなり鞄を抱えて現れ、慌てて外に出ようとした男二名及びその直後にも右二名と同様に同会館奥からいきなり鞄を抱えて現れ、慌てて外に出ようとした男二名がいた。これらの者は、捜索には渋々応じたものの、警察官が氏名等を確認しても明らかにしないばかりか、捜索中の警察官らには口々に捜索をせかし立て、すぐにでも退去しようとする態度を示したので、警察官らは、これらの者に対する捜索差押えの実施状況を写真撮影した。この写真撮影は、「捜索状況を写真撮影する」と申し向け、物理的強制力を行使することもなく行われた。

(4)  よって、本件捜索差押許可状(1) ないし(3) の執行過程には違法がない。

(三) 本件差押え(一)に係る押収物の還付拒否について

(1)  原告組合が被告伊達に配達証明郵便で送付してきた平成四年一一月四日付けの「押収品還付請求」と題する文書は、同年一一月六日に千葉県警察本部へ配達されている。

(2)  千葉県警察は、原告組合の右還付請求に対し、本件差押え(一)に係る押収物の留置を継続した。これは、本件捜索(一)及び本件差押え(一)が千葉地方裁判所裁判官の発付した捜索差押許可状を適法かつ適正に執行したものであること、本件差押え(一)に係る押収物である各機関紙はいずれも本件犯行(一)又はその背景事実に関係する書面であること、さらに本件犯行(一)は、中核派が周到かつ綿密に計画し、組織をあげて一都三県下の七カ所において同時に敢行した組織的、計画的、密行的な犯行の一つであり、このような事件の特殊性及び重大性、捜査の進展性等からして本件差押え(一)に係る押収物を「留置の必要がないもの」とする状況にはなかったことによるものである。なお、本件差押え(一)に係る押収物である機関紙は、千葉地方裁判所平成四年(む)第一五五七号の決定に基づき、平成五年一月一三日に原告組合に還付されている。

(3)  よって、原告組合の押収品還付請求への対応に違法はない。

(四) 本件捜索差押許可状(4) の執行について

(1)  執行直前の状況

ア 被告羽部を責任者とする警察官らは、平成五年四月二〇日午前八時三〇分ころ動力車会館前に到着した。捜索責任者は、同会館内に向かって、捜索に来た旨を申し向けたが、すぐには応答がなく同様の呼びかけを数回繰り返したところ、ようやく男一名が現れた。被告羽部は右の者に対して捜索に来た旨を申し向けたところ、同人は「執行部を呼んでくる」と言って同会館二階に上った。その後、同会館内から男三名が現れたので、被告羽部は、この者らに自らの身分を明らかにするとともに令状による捜索差押えに来た旨を告げた。そして同人らに捜索差押立会人になることを求めたところ、そのうち一名がこれを了承したので、同人を総括立会人として、同人に捜索差押許可状を呈示した。総括立会人は「詳細にメモをとらせてもらう。」と言いながら呈示した令状の内容を声に出して読み上げ、他の一名がメモを取っていた。このころ、同会館内にいた一〇名近くの原告組合の組合員と思われる者らが、捜索責任者と対峙するようにして次々に集まり始めた。

イ 被告羽部は、総括立会人に立会人の選定を求めた。これに対し、総括立会人は「警察官の数が多く監視できない。」として警察官の人数を減らすよう要求し、立会人の選定に難色を示した。このとき、これに呼応するようにして前記組合員と思われる者らは、「そんなに大勢必要ない。」「もっと人数を減らせ。」などと口々に叫び、同所は右の者らの野次や怒号で騒然となった。被告羽部は、再度捜索場所の規模に応じた適正数の立会人を選定するよう求めたところ総括立会人も了承し、本件捜索差押えの立会人を選定したので、立会人以外の者は外に出るように通告して現場の混乱を鎮め、同日午前九時ころ捜索差押えを開始した。

(2)  捜索差押えの執行時の状況

ア 本件捜索(二)は、捜索場所を数か所に分け、各捜索場所ごとに立会人を付して実施し、動力車会館付属建物二階から中核派機関紙等捜索差押許可状記載の差し押さえるべき物三点を差し押さえ、同日午前一一時二〇分ころ終了した。被告和田は総括立会人に押収品目録交付書を交付し、同書を受領した旨の請書への署名押印を求めたが、同人はこれを拒否した。

イ 本件捜索(二)に要した時間は、捜索場所の規模及び構造からしても適正に捜索差押えを行った結果であり、不当に組合活動を妨害したという事実はない。

ウ 本件犯行(二)は、中核派が組織をあげて周到かつ綿密に計画し、一都三県下の五か所において連続的に敢行した組織的、計画的、密行的な犯行の一つであること、右被疑事実の現場と動力車会館は同一市内にあること、さらに中核派と同会館は密接な関係にあることなどから、同会館には右被疑事実に係る犯行の謀議、調査、実行を証明する証拠等が存在すると認めるに足りる状況が存在した。このため、同会館に対する捜索差押えを行い、右被疑事実に係る犯行の証拠物を収集保全する必要があった。現に、本件捜索(二)では、捜索差押許可状に記載された「差し押さえるべき物」として機関紙三点が押収されている。

(3)  差し押さえるべき物を隠匿したと認められる者の身体に対する捜索

ア 本件捜索(二)において、警察官らは動力車会館に所在していた者で、差し押さえるべき物を隠匿したと認められる者の身体に対する捜索を行った。

イ これは、中核派が捜索差押時には組織的対応によって差し押さえるべき物を隠匿し、破棄し、あるいはその時間的余裕がない場合は隠匿又は破棄のための時間稼ぎを常套手段としているところ、前述のとおり、同会館は出入者を厳しくチェックし、制限している閉鎖性の高い施設であること、また、本件捜索(二)においても警察官が捜索差押えに来た旨の申し向けをしてから対応するまでに時間を要したこと、令状呈示の際に、内容の読み上げやそのメモなど時間稼ぎとも受け取れるような状況もあり、速やかな捜索差押えができなかったことなどから、警察官らは、この間に同会館内にいた者が差し押さえるべき物を隠匿した蓋然性が高いと認めたものであり、その認定には合理的理由がある。

(五) 本件差押え(二)に係る押収物の留置について

本件差押え(二)に係る押収物である各機関紙はいずれも本件犯行(二)又は背景事実に関係する書面で、本件捜索差押許可状(4) 記載の「差し押さえるべき物」であることは明白である。本件犯行(二)は、中核派が周到かつ綿密に計画し、組織をあげて一都三県下の七か所において同時に敢行した組織的、計画的、密行的な犯行の一つである。千葉県警は事件の特殊性及び重大性、捜査の進展性等からして本件差押え(二)に係る押収物を「留置の必要がないもの」とする状況にはないことから、留置を継続したのである。

五  被告国の主張

1  本件捜索差押許可状(1) ないし(4) の方式の瑕疵の不存在について

(一) 氏名不詳

刑事訴訟法二一九条は、差押等の令状には被疑者の氏名を特定することとし(同条一項)、被疑者の氏名が明らかでないときは、人相、体格その他被疑者を特定するに足りる事項で被疑者を指示することができる(同条二項、六四条二項)と規定している。

しかしながら、被疑者不明の段階においても、犯罪の嫌疑がある限り、捜索差押えをする必要があり、これを禁止する理由はないといわなければならない。

したがって、それにより捜索場所の特定が欠けるような場合は別として、被疑者の氏名又は名称が不明な場合には、その旨を記載すれば足りる(刑事訴訟規則一五五条三項)のであって、この点、人を直接の対象とする逮捕状などとは本質的に異なるというべきである。

(二) 捜索すべき身体もしくは物の特定について

本件捜索差押許可状(1) ないし(4) は、その記載要件において特定に欠けるものではない。

憲法及び刑事訴訟法の定める令状主義の趣旨からすれば、捜索すべき場所等はできる限り具体的かつ個別的に特定されることが望ましいところであるが、他方、捜索の結果や差し押えた証拠物によって、捜査目的たる犯罪事実及びこれと犯人の結びつきなどが少しずつ判明し、次の捜査段階に発展していくという捜査の性格からして、捜査の状況によっては、捜索差押え前には、捜査機関自体も、捜索場所等を詳細に把握し得ていない場合もあるため、この段階において、捜索すべき場所等の明確な特定を要求することは、捜査機関に対して不可能を強いることにもなりかねないところである。

したがって、捜索すべき場所等は令状主義の趣旨を逸脱しない程度に特定すべきであるが、その程度は、合理的に解釈してその場所等を客観的に特定しうる程度であることをもって必要かつ十分であると解すべきである。

かかる観点からすれば、本件捜索差押許可状(2) の「動力車会館に在所する者で差し押さえるべき物を隠匿したと認められる者の身体及び所持品」、本件捜索差押許可状(4) の「動力車会館・同付属建物及び同所に在所する者で差し押さえるべき物を隠匿したと認められる者の身体」との各記載、本件捜索差押許可状(3) の「千葉県千葉市中央区要町二番八号動力車会館敷地内及び駐車場に駐車中の車両」という記載により、捜索すべき身体及び物は特定されているというべきである。

原告らは、「差し押さえるべき物を隠匿したと認められる者」という基準は捜索対象者を特定するに足りる客観的基準たり得るものではないと主張するが、前記のような捜査の性格からして右の記載はやむをえないところであるし、また、当該人物の挙措動作をはじめ事件及び物件の内容、性質、人と場所との結びつき等諸般の事情を考慮することにより客観的に判断することが不可能ではないから、特定の基準たり得ないとする原告らの主張は失当である。

2  (一)次に、裁判官の行為に関する国家賠償責任について述べると、仮に捜索差押許可状の記載要件の特定についての判断に何らかの瑕疵があり、特定に欠けるところがあったとしても、捜索差押許可状を発布した当該裁判官が違法又は不当な目的をもって発付を決定したなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情がない限り、被告国に国家賠償法に基づく損害賠償責任が生じるものではない。

(二) これは、裁判官の行う裁判について、裁判の本質に由来する制約から違法性が限定されることを明らかにしたものであるが、ここにいう裁判の本質については次の四点があげられる。

(1)  裁判の終局性

裁判は上訴を経て又は上訴することができなくなって訴訟手続上形式的に確定したときは、他の訴訟手続との関係でも、その判断内容を不可争のものとして終局的に確定させて、初めてその判断内容について法的安定を図り、法的紛争の公権的解決という裁判の制度目的を達成することができる。

(2)  上訴、再審制度の存在

法は裁判における事実認定や法令の解釈適用の誤りといった裁判に通常随伴する瑕疵については、これを是正してより適正な裁判の実現を確保するための制度として、上訴、再審の制度を設け、ある裁判を不服とする当事者にこれらに訴える途を開いている。

(3)  裁判官独立の要請

裁判官がその裁判でした判断(事実認定、法令の解釈適用)の当否を他の裁判官の判断にさらすことは、裁判官の職務執行上不可欠である独立不覊の精神を損なうおそれがある。

(4)  裁判行為の特質(自由心証主義、法令解釈の相対性)

裁判という行為は、事実認定、法令の解釈及び事実への法令の適用からなるが、これらはいずれも判断者如何によって意見の分かれ得るような問題についての結論の選択という要素を含むものであって、いずれの結論が客観的に正しいかについての決め手はない性質のものである。

(三) 捜索差押許可状の発付についても右(1) ないし(4) の裁判の本質が妥当する。

すなわち、捜索差押許可状の発付に対する不服申立方法としては、刑事訴訟法上準抗告手続が予定されている上、これに対する裁判官の判断内容についても、これを不可争のものとして終局的に確定させて法的安定を図る必要性があることは、争訟の裁判と全く異ならない。また、捜索差押許可状発付の裁判に裁判官の独立が要請されることはもとより当然であり、右裁判は、事実認定、法律の解釈適用につき裁判官が結論を選択するという判断作用を内容とするものであることも明らかというべきである。

(四) したがって、捜索差押許可状の発付については、これが違法とされるためには、違法又は不当な目的で令状を発付するなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情があることを必要とすると解される。

(五) 右特別の事情については、国家賠償法一条一項における違法性の要件を基礎付ける事実として、国家賠償を請求する原告が主張立証責任を負うべきである。その理由は、以下のとおりである。

(1)  公権力の行使には、ほとんど常に権利侵害を伴うが、公権力の行使に基づく権利侵害については、法律による行政の原理の下、適法なものとして許容されているため、特に公権力の行使が違法な場合に限って国等に損害賠償責任が認められる。

したがって、国家賠償請求訴訟においては、まず当該公権力の行使たる公務員の行為について違法性の存否が検討されなければならず、請求原因事実として位置づけられなければならない。

(2)  民法七〇九条の関係では、権利侵害すなわち加害行為を主張立証することにより、違法性を基礎付ける事実についても同時に主張立証したことになるため、違法性を独立の要件とする意味がないとする見解もありうるが、本件のような捜索差押許可状の発付について国家賠償請求がされる場合には、右令状の発付自体は法律の規定に基づく適法行為であるから、令状の発付をいうだけでは違法性を主張したことにはならず、当該令状の発付が違法であることまで請求原因で主張する必要がある。

(3)  違法性それ自体は規範的な概念であり、直接に立証の対象になりうるものではなく、また、攻撃防御の対象としても不明確であるから、違法性を基礎付ける事実が訴訟において主張立証すべき要件事実というべきである。

裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情は、違法性を基礎付ける事実であるから、これについては国家賠償を請求する者において主張立証すべきである。

さらにいえば、裁判官の行う裁判について違法性を限定する根拠たる前記裁判の本質に鑑みるとき、裁判官の行う裁判については原則として国家賠償請求における違法性は認められないというべきであるから、例外的にそれが認められるべき特別の事情については国家賠償を請求する者において主張立証すべきである。

しかるに、本件では、原告らは、本件の各捜索差押許可状の発付に際しては、明らかに捜索差押えの必要性、押収物存在の蓋然性がなかった以上、請求を受けた裁判官はこれを却下すべきであったとして、捜索差押許可状の発付の要件審査の瑕疵を主張するにとどまり、それ以上に、担当裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官が付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情に当たる具体的事実を何ら主張しておらず、そもそも、主張自体失当というほかない。

第三当裁判所の判断

一 被告千葉県の責任

1 本件捜索差押許可状(1) ないし(4) の各請求について

(一)(1)  前記前提となる事実に記載のとおり、本件捜索差押許可状(1) ないし(4) は、いずれも本件犯行(一)及び(二)に係る被疑者の身体、物又は住居等ではない動力車会館及びその付属建物等に対する捜索並びに差押えの許可状であるところ、刑事訴訟法は、このように被疑者以外の第三者の身体、物又は住居その他の場所を捜索し、物を差し押さえようとする場合は、捜査機関は、当該捜索場所に押収すべき物の存在を認めるに足りる状況(押収すべき物の存在の蓋然性)のある場合であって(同法二二二条一項で準用する一〇二条二項)、当該被疑事実に係る捜査をするについて捜索差押えの必要性のある場合(同法二一八条一項)に限り、裁判官に対し捜索差押許可状の発付を請求することができるとしている。

(2)  したがって、本件捜索差押許可状(1) ないし(4) について、被告羽部の行った各令状請求が適法であるためには、捜索の対象とされた動力車会館に押収すべき物の存在の蓋然性が認められ、かつ、本件犯行(一)及び(二)に係る犯罪の捜査をするについて捜索差押えの必要があったという要件を満たす必要がある。

(3)  そして、右要件の存在については、その性質上、捜査機関側が主張立証責任を負担すると解するのが相当である。なぜならば、憲法三五条一項は、何人もその住居等について捜索及び押収を受けることのない権利を保障しており、したがって他人の住居等についての捜索等は本来違法な行為といえるところ、同項は、例外として、正当な理由に基づいて発せられた令状による捜索等は、その違法性を阻却し、結果的に適法なものとして許される旨規定している。そして、刑事訴訟法の前記各規定は、右の適法要件たる正当な理由についての具体的な定めの一つであると解されるのであるから、違法性阻却事由ともいうべき右要件の存在については捜索等を行う側である捜査機関が主張立証責任を負うものと解されるのである。

この場合、後に結果的に押収すべき物が存在しなかったことが判明しても、そのことだけでは捜索が違法になるものと解すべきではなく、捜査機関が捜索の時までに収集した証拠資料及び通常捜査機関に要求される捜査をしていれば収集しえた証拠資料を総合勘案し、合理的に判断して、右のように捜索の必要性があり、押収すべき物の存在の蓋然性が認められる場合には、捜索は違法性を欠くことになるものと解すべきである。

(4)  また、本件においては、本件犯行(一)に係る犯行の発生から約八か月が経過した平成四年一〇月二三日付けで本件捜索差押許可状(1) ないし(3) の請求がなされ、また本件犯行(二)に係る犯行の発生から約六か月が経過した平成五年四月一九日付けで本件捜索差押許可状(4) の請求がなされている。

したがって、本件捜索差押許可状(1) ないし(4) の請求の適法性については、いずれも犯行発生から半年以上経過した時点での令状請求時における押収すべき物の存在の蓋然性が問われなければならない。

(二) そこで、本件各捜索差押許可状請求の時点において前記の各要件が存したかどうかについて検討する。

(1)  証拠(二二号事件の丙一七、二六ないし二八)によれば、本件犯行(一)の行われた後、中核派は自ら犯行を行ったことを認める印刷物を発行し、またその機関紙「前進」においても同様に本件犯行(一)を自認し誇示する内容を記載していることが認められ、これによれば、本件犯行(一)は中核派による組織的犯行との疑いをもつことができる。

また、証拠(九〇四号事件の丙一三、二二ないし二四)によれば、本件犯行(二)の行われた後にも、中核派は右同様に自ら犯行を行ったことを認める印刷物を発行し、またその機関紙「前進」等においても本件犯行(二)を自認し誇示する内容を記載していることが認められ、したがって、本件犯行(二)についても中核派による組織的犯行との疑いをもつことができる。

(2)  そして、証拠(二二号事件の丙七、八、九の1、2、一〇ないし一七、一八の1ないし5、一九ないし二一、二二の1ないし4、二三、二四、二九ないし三三、三四の1ないし6、三五ないし三九、四〇の1、2、四一ないし四六、四七の1ないし3、四九ないし五八、五九及び六〇の各1、2、六一ないし六六、六七の1、2、被告羽部本人)によれば、動力車会館は原告組合の組合事務所として使用されているほか、全国労組交流センター、千葉労組交流センター、反戦共同委員会などの組織、団体の事務所や連絡先としても利用されていたこと、原告組合や右の全国労組交流センター、千葉労組交流センター、反戦共同委員会などの各組織、団体と中核派との関係について前記被告千葉県らの主張1(二)の(2) ないし(5) 記載の各事実の存することが認められ、これによれば、動力車会館を利用している原告組合や全国労組交流センター等の団体と中核派とは密接な関係を有していたものと一応考えられる。

(3)  さらに、本件犯行(一)及び(二)がいわゆる中核派によるゲリラ闘争として位置付けられているものであり、同派の機関紙「前進」では、闘いのために議会や労働組合をはじめとするすべての合法的陣地をも徹底的に使い切っていく旨記載されていること(二二号事件の丙四七の1ないし3)や、その各犯行場所がいずれも千葉市内であって動力車会館とは比較的近接した場所であることも認められる。

(4)  被告羽部は、その本人尋問において、本件犯行(一)及び(二)ともに、犯行直後から現場遺留品の検討や聞込み捜査、さらに中核派の機関紙類を分析した結果、中核派が成田空港反対闘争やPKO派兵阻止闘争として起こしたゲリラ事件であると考えて捜査を続け、中核派と動力車会館とに密接な関連があるものと判断して、それぞれ捜索差押許可状の請求をし、その際、遺留品や聞込み捜査等の結果に関するものも含む捜査報告書等を疎明資料として提出したと供述しているが、右疎明資料の内容や各捜索差押許可状の請求時において動力車会館に押収すべき物が存在すると判断した具体的な根拠については、各事件がいまだ捜査中であることを理由に明らかにしない。

(5)  以上の(1) ないし(3) の事情からすると、捜査機関において、動力車会館に本件犯行(一)及び(二)に係る押収すべき物が存在するのではないかと考えることもあながち否定できないものといえる。しかしながら、前述したように被疑者以外の第三者の身体、物又は住居その他の場所を捜索し、物を差し押さえようとする場合には、単に存在するかも知れないという程度ではなく、押収すべき物の存在の蓋然性が認められ、しかもその捜索差押えが当該犯罪の捜査のために必要であることが要求されるのであり、この観点からすると、本件の各捜索差押えにおいて差し押さえるべき物とされたうちの中核派の機関紙等については、前記のような原告組合等と中核派との関係からすれば、その存在する蓋然性があるとしても、本件犯行(一)あるいは(二)の捜査のためにそのような機関紙等一般を対象に捜索差押えをする必要性があったものと認めることはできず、またこれが右の各犯行に特に関係のあるものを対象としたものと限定して解しても、その原稿や原板そして別紙記載の差し押さえるべき物の各二に記載されている物も含めて、本件犯行(一)あるいは(二)の具体的な事実と動力車会館との個別的な関連を首肯させるような事情が全く窺われない(被告千葉県らにおいて、捜査中であることを理由にその立証をしない。)本件において、前記のような一般的な事情のみで動力車会館にこれら押収すべき物が存在する蓋然性があり、しかもその捜索差押えが右各犯行の捜査に必要であったものと認めることはできない。

(6)  また、前述したように本件では各犯行から六か月ないし八か月経過後における右蓋然性の存在が問われているところ、前記(1) ないし(3) の事情は、いずれも本件犯行(一)及び(二)の行われる以前もしくは直後にすでに捜査機関において把握していたものであり、本件全証拠によっても、本件各捜索差押許可状の請求時点において、新たに動力車会館に押収すべき物の存在の蓋然性や捜索差押えの必要性を首肯させるような事情の存在したようなことも窺えないのである。

(7)  なお、被告羽部の請求を受けて、訴外馬場が本件捜索差押許可状(1) ないし(3) を、訴外中川が本件捜索差押許可状(4) をそれぞれ発付したことは前記のとおりであるが、その際に検討されたであろう疎明資料の内容等が全く明らかにされていない以上、右各許可状が発付されたという事実だけで、その請求時において押収すべき物の存在の蓋然性や捜索差押えの必要性があったことを認めることはできない。

また、被告千葉県らは計画的、組織的なゲリラ事件における捜査には時間を要することや一斉捜索の必要性などの特殊性を主張するが、これらと捜索差押許可状請求の要件である押収すべき物の存在の蓋然性等とは厳然として区別されるべきであって、右主張は理由がない。

さらに、本件の各捜索時に、本件差押え(一)及び(二)がなされて、それぞれ前記中核派の機関紙等が押収されているのであるが、その一部である「前進」や「週刊三里塚」には本件犯行(一)及び(二)の事実について記載されていることが認められるものの(二二号事件の甲三六、丙二七、二八、九〇四号事件の丙二三、二四)(他の押収物の記載内容については、被告千葉県らはこれを明らかにしようとしない。)、その内容からして、格別、捜査に具体的、個別的に役立つようなものとはいえず、またいずれも相当多数が一般に配布されていて、捜査機関において他の手段でも比較的入手が容易なものと考えられ、中には市中の書店等で販売しているものもあるのであって、右のような押収物が偶々存在したとしても、その捜索差押えが本件犯行(一)あるいは(二)の捜査に必要であったものと認めることはできないのであって、したがってその存在を理由に本件各捜索差押許可状請求の時点において押収すべき物の存在の蓋然性があったということもできない。

(8)  以上によれば、本件では、取り調べた全証拠によっても、被告羽部による本件捜索差押許可状(1) ないし(4) の請求について、押収すべき物の存在する蓋然性やそのための捜索差押えの必要性があったことは、いまだ認められないというほかない。

(三)(1)  原告らは、本件捜索差押許可状(1) ないし(4) が、いずれも被疑者の氏名を不詳として請求、発付されていることについて、刑事訴訟法二一九条に反して違法であると主張するが、被疑者不明の段階においても、犯罪の嫌疑が認められる限り、捜索差押え等の強制処分をする必要の生じることは十分にありうるのであって、これを禁止する理由はなく、また捜索差押許可状に被疑者等の氏名を記載するのは、罪名の記載と合わせて、当該捜索差押許可状が具体的に発生した犯罪に関して正当な理由に基づいて発付されたものであることを示すためと解されるところ、被疑者について「氏名不詳」とされ、具体的な氏名やこれに代わる人相や体格等の特定のための事項が記載されていないからといって、当該捜索差押許可状が正当な理由に基づいて発付されたものではないとはいえない。そして、令状請求書には、被疑者等の氏名が明らかでないときは、その旨を記載すれば足りるとされていること(刑事訴訟規則一五五条三項)をも併せ考えると、刑事訴訟法二一九条が被疑者不詳の捜索差押許可状を禁じているものとは解されないのである。

したがって、被疑者の氏名が不詳であることにより捜索場所の特定が欠けるような場合は別として、被疑者の氏名不詳の捜索差押許可状の請求及び発付が直ちに違法であるということはできず、本件捜索差押許可状(1) ないし(4) が捜索場所の特定に欠けるものでないことは前述したところから明らかであるから、原告らの主張は理由がない。

(2)  原告らは、本件捜索差押許可状(2) 及び(4) が、捜索すべき身体として、「差し押さえるべき物を隠匿したと認められる者の身体」としていることについて、捜索対象者を特定するに足りるものでないと主張し、また本件捜索差押許可状(3) が、捜索すべき場所として「動力車会館敷地内及び駐車場に駐車中の車両」としていることについても、第三者管理の可能性のあるものを含む一般令状であって違法であると主張している。

しかし、場所に対する捜索差押許可状が執行された際にその場所に居合わせた人について、差し押さえるべき物を隠匿したと認められる状況が存在する場合には、右捜索差押許可状によってその人の身体の捜索をすることも許されるものと解されるところ、本件捜索差押許可状(2) 及び(4) は、そのような場合のあることを考慮して、より慎重な手続をとって、あらかじめこれを捜索の対象に含めた捜索差押許可状を請求し発付したものといえるのであり、また対象者の特定を「差し押さえるべき物を隠匿したと認められる者」としていることも、身体捜索の必要性のある場合を限定するために、相当かつやむを得ないものと認められるうえ、その判断は当該人物の挙措動作や外見の異常、差し押さえるべき物の内容、性質、被疑事件の性質、当該人物と場所との結びつき等の事情により客観的に判断しうるものであることに照らしても原告らの主張は認められない。

また、ある特定の場所について捜索差押許可状が発付された場合は、これによって、当該場所の物が存在しうる空間はもとより、その空間内にあって同一の管理権が及んでいると認められる物件についてもすべて捜索が可能となるのであるから、当該場所の管理者の管理する自動車がその管理権の及ぶ敷地または車庫内にあるような状態においては、当該場所に対する捜索差押許可状によってその自動車内部をも捜索しうるものと解することができる。これと異なり、捜索の対象となった場所の管理者の管理権の及ぶ範囲内に存在する自動車が、右管理者の管理に属するものでない場合には、当該場所に対する捜索差押許可状によってその自動車の内部まで捜索することは許されないと考えられ、したがってこの場合には、別個の捜索差押許可状の発付を受ける必要があると解されるのであるが、本件捜索差押許可状(3) は、このような場合に備えて動力車会館に対する捜索差押許可状とは別に請求され発付されたものといえるのである。そして、その対象となる自動車を「動力車会館敷地内及び駐車場に駐車中の車両」としたことも、特定の方法としては相当かつやむを得ないものといえるのであって格別違法とはいえず、またこの捜索差押許可状が対象を特定しない一般令状であるということもできない。

(3)  原告らは、本件各捜索差押許可状で、差し押さえるべき物の中に機関紙等を含めていることは、知る権利や情報提供権を侵害するものであり、その他の労働組合の業務の過程で作成される物についても、本件各犯行と関係のないことは明らかであるとして、捜索差押えの必要性を欠いた請求であり発付であると主張するが、機関紙等が当然に差押えの対象にならないと解することはできず、また通常は労働組合の業務の過程で作成される物であるからといって、直ちに本件各犯行と関係のないことが明らかともいえないのであって、この点の原告らの主張も理由がない。

(四) 以上によれば、本件捜索差押許可状(1) ないし(4) の請求については、押収すべき物の存在の蓋然性やその捜索差押えの必要性が認められない点で違法と評価され、これを行った被告羽部には少なくとも過失があるものということができるが、その余の違法に関する原告らの主張は理由がない。

2 各捜索差押許可状の執行過程の違法性

(一) 本件の各捜索差押許可状の請求が右のように違法であれば、これによる捜索差押えもまたそれによる違法性を帯びたものというべきであるが、原告らは、さらに実際の捜索差押えの執行過程においても違法が存する旨主張するので検討するに、前記前提となる事実及び証拠(二二号事件の甲六、七、三九、四〇、証人田中康宏、原告布施及び被告羽部各本人)によれば本件各捜索の過程に関して次の各事実が認められる。

(1)  千葉県警は、本件捜索(一)及び(二)とも被告羽部を責任者とし、いずれの際にも、事件の概要、任務分担、差押えるべき物などについて時前の打ち合わせを行い、動力車会館一階、二階、付属建物、車両等と捜索の担当場所を分担し、各分担場所毎の責任者には警部補をあて、その下には二人から一〇人の捜査員を配置した。また執行に際しては、本件捜索(一)及び(二)とも、カメラ、図板、場所、物等を特定する資機材などを用意した。

(2) ア 本件捜索(一)にあたっては、まず、被告羽部が動力車会館入口のインターホンで身分を名乗り、何回も捜索差押えに来た旨を告げたが、人の気配はするものの応答がなかったので、開いていたシャッターを潜るようにして中に入っていったところ、内部の鉄製扉が閉じられていた。その場所で、被告羽部は、内部に居る者に対し捜索差押えに来た旨申し向けたところ、中から二、三人が出てきたが、この中に総括立会人となった田中書記長がいた。

イ 被告羽部は、田中書記長に対し、警察官の身分と令状による捜索差押えに来た旨を告げ、立会人になることを求めたところ、同人はこれを了承したので、同人を総括立会人とし、捜索差押許可状を提示したところ、同人は大声でこれを読み始めた。

すると、動力車会館内部から、大勢の人が次々に被告羽部ら捜査員と対峙するようにして集まり、被告羽部らに対し、一人一人の名前を言え、警察手帳を示せ、動力車会館は捜索に関係ない、この中に暴力団がいるかも知れない、帰れなどと口々に叫び始め、野次や怒号でその場は騒然となり、中にはカメラを持って捜査員の写真を撮ったり、今にも掴みかかろうとする態度を示す状況もみられた。

ウ そこで、被告羽部は、田中書記長に対し、五、六名の立会人を選定するよう求めたが、同人は、立会人の数が少ないとして難色を示し、また中からも同様の野次、怒声があった。そのため被告羽部は、右場所から少し離れて田中書記長と二人で話し合い、その結果、開始から二〇分以上経過して、ようやく捜索差押えに着手できることとなった。

エ 被告羽部は、原告組合がその機関紙においてカナメ商事は動労千葉の一組織であると述べていること、原告組合の委員長がカナメ商事の代表者であること、カナメ商事は動力車会館の中にあり、閉鎖性の強い構造になっている動力車会館内において原告組合と一体となってこれを使用している状況などに照らし、カナメ商事は原告組合の一組織であり、殊更原告組合と区別する必要はないものと判断して、本件捜索差押令状(1) に基づいてカナメ商事の使用部分についても捜索を行った。

オ 被告羽部は、本件捜索差押許可状(3) に基づいて、動力車会館の駐車場に駐車してあった二台の自動車の捜索を実施した。執行に際しては、原告組合の立会人を付して行い、右立会人が動力車会館の中から鍵を持ってきて自動車のドアを開け、捜索を行った。

カ また被告羽部は、捜索着手までに相当の時間を要したこと、鉄製扉が閉まっていたため、着手まで内部の状況が分からなかったこと、捜索差押許可状提示の段階で立会人の数をめぐって現場が混乱したことなどから、差し押さえるべき物が隠匿されている可能性があると考えていたところ、原告布施、同山口、同赤羽根らが、捜索開始直後のまだ混乱している最中に、鞄を抱えるなどして外へ出ようとし、捜査員が名前を聞いても答えなかったため、差し押さえるべき物を隠匿したと認められる旨判断して、本件身体捜索(一)を行い、所持品のある者については提出させ、また着衣の上から手で触って、所持品の有無や内容を確かめるなどした。

キ その結果、差し押さえるべき物はなかったとの報告を受けたので、被告羽部は、右身体捜索の事実と経過、対象者を明らかにするために本件写真撮影を行わせた。撮影場所は、動力車会館出口付近の一階フロア部分を使用し、区別、特定のためにB5版大の画用紙に数字を書いて一緒に撮影した。

(3) ア 本件捜索(二)にあたっては、被告羽部らが動力車会館前に到着した時には、動力車会館の入口シャッターは開いていたが、被告羽部はインターホンを通じて身分を名乗り、捜索に来た旨を何回も申し向けたところ、一人の男性が現れたので、同人に対して捜索に来た旨を告げた。すると同人は執行部を呼んでくると言って中に入っていき、鉄製扉を閉めた。

イ その後、数分してから、内部から二、三人が現れ、その中に田中書記長がいたので、被告羽部は、身分を明らかにするとともに、令状による捜索差押えに来た旨を告げ、立会人になることを求めたところ、同人が了承した。そこで、同人を総括立会人として、被告羽部が本件捜索差押許可状(4) を示したところ、田中書記長は「詳細をメモさせてもらう。」と言いながら大声で内容を読み上げ、脇にいた者がメモを取った。

このころ、同会館内にいた大勢の者が、捜査員らと対峙するようにして次々に集まり、その場は野次と怒号で騒然となり、そのため被告羽部は、田中書記長と二人で話し合い、立会人の数を決めて、このときも開始から二〇分以上してようやく捜索差押えに着手できた。

ウ 前述のように、被告羽部は、カナメ商事は原告組合の一組織であり、原告組合と区別する必要はないものと判断して、その使用部分についても本件捜索差押令状(4) により捜索を行った。

エ また動力車会館内に居た者に対する身体捜索も行われたが、これは捜索開始当初、なかなか内部から人が出て来ず、また男性が執行部を呼んでくると言って中に入って行ってからも数分の時間を要したことから、この間に差し押さえるべき物を隠匿した可能性が高いと被告羽部が判断したためであった。捜索は、所持品を提出させ、また着衣の上から手で触るなどの方法により、所持品の有無や内容を確かめた。

(二)(1)  原告らは、本件捜索(一)及び(二)とも、原告組合の活動の妨害を目的として、必要性がないにもかかわらず殊更に本件捜索(一)は三時間半、(二)は約三時間の長時間にわたって行われ、その間、かかってきた電話への応対も妨害し、原告布施及び原告山口が東京での団体交渉への出席のために出掛けようとするのを阻止して身体捜索や写真撮影を行い、また原告組合主催の運動会の準備に来ていた原告赤羽根が駐車場に行くのも阻止して、身体捜索と写真撮影を行ったもので、憲法二八条で保障された団結権等を侵害する違法行為であると主張する。しかし本件全証拠によっても、本件捜索(一)及び(二)そしてその際の身体捜索や写真撮影等が捜査機関において原告組合や各個人原告の組合活動の妨害を目的にして行われたものと認めることはできず、また捜索の対象となった場所が捜索に要する合理的かつ相当な時間、事実上その使用ができなくなるのは、捜索の執行上やむを得ないものと解されるところ、前記認定のとおり、本件捜索(一)及び(二)にあたっては、いずれもその開始当初に混乱の生じたことや、動力車会館の規模、構造、差し押さえるべき物の種類や性質などの諸事情を考慮すれば、前記程度の時間は合理的で相当な範囲内であるということができる。捜索差押手続の執行中における電話の受発信についても、本件全証拠によっても捜査員において強制的にこれを禁じた事実は認めることはできないが、仮に捜査員が電話の受発信を控えるよう要請したことがあるとしても、強制にわたるものでなければ捜索差押えの捜査手続としての性質上許されるものと解される。

(2)  原告らは、カナメ商事の使用部分については、本件各捜索差押許可状による捜索は許されないと主張する。しかし、そもそも捜索は当該場所についての管理権の侵害という実質を有し、捜索差押許可状がこれを許容する趣旨のものであることからすれば、社会通念上単一の管理権が及ぶ範囲内の場所については一通の捜索差押許可状で足りるものと解されるところ、本件では、証拠(二二号事件の甲九、三九、丙二五、証人田中康宏、被告羽部本人)によれば、原告組合自らがカナメ商事はその一組織であると言明していること、原告組合の委員長が同時にカナメ商事の代表者になっていること、動力車会館はその構造等に照らして極めて閉鎖性の強い建物であるうえ、カナメ商事がこれを使用するについては何らの契約関係も存せず、原告組合としても事実上一体のものと認識していたこと、実際の使用状況も原告組合の管理から全く別個の独立したものとはいえないことがそれぞれ認められるのであって、これらの事実から、被告羽部らが、カナメ商事の使用部分についても、他の部分と同様に原告組合の管理権が及んでいるものと判断したのは相当であって、本件捜索差押許可状(1) 及び(4) によってカナメ商事の使用部分を捜索したことをもって違法とはいえない。

(3)  また、自動車の捜索についても、前記認定事実によれば、それは本件捜索差押許可状(3) の執行としてなされたもので、対象はいずれも動力車会館の駐車場に駐車してあった二台の自動車で、原告組合から立会人となった者が動力車会館の中から鍵を持ってきてそのドアを開けており、したがって各自動車については原告組合の管理権が及んでいたものとも考えられるのであって、その執行に違法とすべき点は認められない。

(4)  また本件身体捜索(一)及び(二)についても、前記認定した捜索差押時の経過事実に照らせば、原告布施、同山口、同赤羽根を含め、その対象とされた者らについて、その様子や行動、現場の状況等から、差し押さえるべき物を隠匿したものと認めて身体捜索を実施したことは相当かつやむを得なかったものと認められる。

そして、本件写真撮影のような捜索差押えの執行時における捜査機関による写真撮影は、証拠物の証拠価値を保存するために証拠物をその発見された場所、発見された状態において写真撮影したり、捜索差押手続の適法性を担保するためその執行状況を写真撮影する限りにおいて、捜索差押手続に付随するものとして許されると解されるところ、前記認定した経過事実からすれば、本件写真撮影は右の後者の場合に該当するものと認められ、これを違法ということはできない。その際、写真撮影の対象となった人物の容姿や風貌が写ったとしても、その特定が必要とされる以上やむを得ず、強制処分たる捜索差押えの性質上許容されるものと解される。

(5)  本件差押え(一)及び(二)の違法性について

原告組合は、本件差押え(一)及び(二)により押収された機関紙類は、いずれも本件各犯行との関連性がなく、差し押さえるべき物に当たらない旨主張する。

ところで、捜索差押えの結果、発見された物品について、それが差押えを許可された物といえるかどうかの判断は、事柄の性質上、捜索差押えを執行する捜査員の合理的な裁量判断に委ねられているものと解される。そして、この判断は、捜索差押現場において、捜査員が短時間にしなければならないものであるうえ、対象物の内容によっては、時間をかけて分析しなければ当該物品と被疑事実及び背景事実との関連性の有無が判明しない場合も存することからすれば、被疑事実等との関連性のないことが一見して明らかであるような場合にはこれを押収することは許されないものの、後日の分析と検討を待たなければ関連性が明らかにならないようなものについては、当該捜索差押現場において一応の関連性を認定して差押えをしたとしても、これをもって違法な差押えと評価することはできない。

そして、本件においては、本件差押え(一)及び(二)に係る押収物には、本件犯行(一)ないし(二)の事実に関する記載が存し、あるいは前記中核派の機関紙であることから(二二号事件の甲三五ないし三八、丙二七、二八、九〇四号事件の丙二三、二四)、一見して本件犯行(一)ないし(二)との関連性のないことが明らかとはいえず、結果として前述のように右各犯行の捜査に役立つとは認められないものであったとしても、捜索差押時において、各犯行の背景等に関連する記載の存在を疑って、その分析の必要があるものとしてこれを差し押さえたのもやむを得ない判断と認められ、本件捜索差押許可状(1) ないし(4) の存在を前提とする限り、いずれも違法な差押えということはできない。

(三) したがって、本件各捜索差押えの執行過程においても、違法があるとする原告らの主張は認められない。

3 押収継続の違法性

(一) 本件差押え(一)に係る押収物について、原告組合が、被告伊達に対し、平成四年一一月四日到達の内容証明郵便で還付請求をなしたが、被告伊達はこれに応じず、原告組合らの準抗告に対する決定を経て平成五年一月一三日に還付されたことは前記のとおりであり、本件差押え(二)に係る押収物については具体的な還付請求や準抗告等はなされずに、現在も押収されたままであることが認められる(被告羽部本人)。

(二) しかしながら、本件捜索差押許可状(1) ないし(4) の請求が前述のとおり違法と評価されるものであることからすれば、これにより差し押さえた各押収物について、直ちに還付することなく押収を継続して準抗告申立てに対する決定を受けて還付し、あるいは現在もなお押収を継続していることもまた違法というべきである。

二 被告羽部らの個人責任について

公権力の行使に当たる国又は公共団体の公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には、当該公務員の所属する国又は公共団体が損害の賠償をすべき責任を負うのであって(国家賠償法一条一項)、当該公務員が職権を濫用して公権力を行使した場合など特段の事情のない限り、当該公務員個人は不法行為による損害賠償責任を負わないものと解されるところ、本件においては、被告羽部ら本件捜索差押許可状(1) ないし(4) の請求及びその執行に係わった個人被告らについて右特段の事情の存在を認めることはできず、したがって、原告らの各個人被告に対する民法七〇九条による損害賠償請求は失当である。

三 被告国の責任

裁判官がした争訟の裁判について、仮に上訴等の救済方法によって是正されるべき瑕疵が存在したとしても、これによって当然に国家賠償法一条一項にいう違法な行為があったとして国の損害賠償責任の問題が生じるものではなく、右責任が肯定されるためには、当該裁判官が違法または不当な目的を持って裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情があることが必要である(最高裁昭和五三年(オ)第六九号、昭和五七年三月一二日第二小法廷判決・民集三六巻三号三二九頁)。そして、本件のような捜索差押許可状の発付の可否についての判断も、法律適用上の判断をなす点では裁判官固有の判断作用として争訟の裁判と変わるところはなく、前記のような特段の事情のない限り、これを違法と評価することはできないと解するのが相当である。そこで、本件各捜索差押許可状の発付行為についてこれを見るに、問題となっているのは、その各請求に対し刑事訴訟法上の捜索差押許可状発付の要件を満たしているかどうか、すなわち請求者の提出した資料によってその要件が疎明されていると認められるかどうかについての法律適用上の判断に関するものであって、その判断の当否は右特別の事情に当たるものではなく、その他、本件における各担当裁判官がその権限の趣旨に明らかに反してこれを行使したといえるような特段の事情を認めるに足る証拠もない。

四 損害

1 以上によれば、本件においては押収すべき物の存在の蓋然性及び捜索差押えの必要性が認められない点で本件の各捜索差押許可状の請求は違法と認められ、これに基づいた捜索差押えの執行及び押収も違法性を帯びるものというべきであり、被告千葉県は、国家賠償法一条一項により、これによって原告組合や各個人原告の被った損害を賠償すべき責任があるものと認められる。

2 そして、本件の違法な各捜索差押許可状の請求及びその執行により、原告組合が、その住居の平穏やプライバシーを侵害され、労働組合としての活動を妨げられたことなどによる無形の損害に対する賠償額としては、本件の各捜索の態様や時間、その違法の程度、押収物の内容、さらに具体的な執行過程における違法が認められないことなどの諸事情を考慮すると、本件の各捜索及び差押え、押収ごとに二五万円、合計で五〇万円とするのが相当と認められる。

また、原告布施、同山口、同赤羽根が、本件捜索(一)の際に身体捜索や写真撮影を受けたことについては、その執行過程においては違法性はなかったとしても、本件の違法な捜索差押許可状の請求がなされなければ受けることもなかった侵害行為であったことからすれば、これによって右各原告らが被った精神的苦痛による損害についても、被告千葉県には賠償すべき責任が存するのであって、その慰謝料額は、それぞれ五万円が相当と認められる。

五 結論

よって、原告らの請求は、被告千葉県に対し、原告組合が、五〇万円及び内金二五万円に対する平成五年一月二五日から、内金二五万円については平成五年四月二〇日から、それぞれ支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、原告布施、原告山口及び原告赤羽根が各五万円及びこれに対する平成五年一月二五日から支払済みまで右同様年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由があり、被告千葉県に対するその余の各請求、被告国及び被告伊達、被告羽部、被告牧口、被告和田に対する各請求はいずれも理由がない。また、仮執行宣言については相当でないのでこれを付さないこととし、平成一一年一二月一三日に終結した口頭弁論に基づき主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤敏孝 裁判長裁判官西島幸夫及び裁判官鈴木秀雄は、転補につき署名押印することができない。裁判官 伊藤敏孝)

別紙一

一 革命的共産主義者同盟全国委員会(通称革共同前進派=中核派)の成田空港二期工事阻止闘争(収用委員会再任命阻止、強制収用阻止、公開シンポジウム粉砕)についての主義、主張またはそれを支持し、あるいは煽り若しくは犯行を認める機関紙(誌)、ビラ類の文書及び原稿、原板

二 本件犯行に関係あると思料される

(一) 綱領、規約、議案書、会議議事録、闘争宣言、闘争日誌(記)

(二) ノート、手帳、メモ、領収書、伝票類、連絡文書、報告書、名簿、注文書、納品書、暗号、記号及び文書類

(三) 金銭出納簿(帳)、名簿、名刺、住所録、電話帳、日誌(記)帳、写真、ネガフィルム、カセットテープ、ビデオテープ及びフロッピィディスク

(四) 犯行計画、犯行声明、地図、略図等

(五) 通信連絡文書、葉書、封書等の郵便物

(六) 爆発物を製造するのに必要な

火薬類・樹脂製容器(塩化ビニール製管)・回転基板・IC・半導体素子・抵抗・コンデンサー・発光ダイオード・コネクター・ジャック・圧着端子・単四乾電池(アルカリ)・ボルト・長ナット・ビス・ワッシャ-・アルミ板・エボキシ系樹脂(接着剤)・ビニールコード・ビニール絶縁テープ・両面テープ・厚紙・ビニールチューブ・インシュロック・ベンチ・ハンダコテ・ドライバー

等の部品・工具類並びに設計図、配線図等

(被疑事実の要旨)

被疑者は、いわゆる極左暴力集団革命的共産主義者同盟全国委員会(略称革共同前進派=中核派)の構成員であるが、他多数の者と共謀のうえ治安を妨げ、かつ人の身体、財産を害する目的をもって平成四年二月一八日午前四時〇三分ころ、千葉市千葉寺町六九二番地の一五、千葉県商工労働部長中田圭吉方庭先にあらかじめ準備した時限式塩ビ管爆弾二個を仕掛けこれを時限の到来により爆発させ、もって爆発物を使用したものである。

別紙二

一 革命的共産主義者同盟全国委員会(通称革共同前進派=中核派)の新東京国際空港反対闘争、自衛隊カンボジア派兵阻止についての主義、主張、方針またはそれを支持しあるいは煽る機関紙(誌)、ビラ類の文書及びその原稿、原板

二 本件犯行にかかる

(一) 規約、綱領、議案書、会議録、闘争宣言、闘争日誌(記)

(二) ノート、手帳、メモ、領収書、伝票類

(三) 金銭出納簿、名簿、名刺、住所録、電話帳、日誌(記)

(四) 写真、ネガ、フィルム、カセットテープ、ビデオテープ及びフロッピーディスク

(五) 犯行計画、犯行声明、地図、略図等の文書類

(六) 通信連絡文書、葉書、封書等の郵便物

(七) 時限式発火装置を製造するに必要な

回路基板、半導体素子、ダイオード、抵抗、圧着端子、コネククー、タイマー、乾電池、ボタン電池、ヒーター部品、樹脂製容器、針金、テルミット、コード類の部品及び設計図、配線並びにペンチ、ハンダコテ、ドライバー、等の工具類

(被疑事実の要旨)

被疑者は、革命的共産主義者同盟全国委員会(略称革共同前進派=中核派)の構成員であるが、他多数の者と共謀のうえ千葉市緑区土気町八二六番地所在の日本航空研修センターを焼燬することを企て、平成四年一〇月三日午前三時三〇分頃右研修センター宿泊棟一階西側通用口に乾電池、テルミット、油類を組み合わせた時限式発火装置を三組、さらに右研修センターの敷地内に駐車中の車両二台の下部にそれぞれ一組を設置し、時限の到来により発火炎上させ、もって宿直員萩原浩が現在する右研修センター宿泊棟の出入口門扉、外壁及び敷地内に駐車中の車両二台(千葉五三た・二五四号、千葉五九つ六二四八号)を焼燬させたものである。

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